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(2)直腸脱と診断されました チクバ外科・胃腸科・肛門科病院理事長・院長 竹馬彰

竹馬彰氏

 ある日、患者さんからこんな相談がありました。

 <60歳の女性です。もともと便秘気味で、排便時に肛門から何か出てくるようになりました。痔(じ)かと思って近くのお医者さんを受診すると「直腸脱」と診断されました。下着が汚れるなど日常生活に支障が出ています。どのような治療法があるのでしょうか>

 症状を緩和しようと思えば手術が必要です。

 直腸脱は「骨盤臓器脱」の一つに分類されるもので、直腸が肛門からひっくり返るように脱出してくるようになったものを言います。高齢の女性に多いのですが、ときに男性や若い方にもみられます。

 骨盤の中で直腸を支えている筋肉や靭帯(じんたい)が緩み、同時に肛門を締める筋肉が緩んでしまうため、直腸を支えることができなくなることによって起こります。長年排便時に長時間きばることが多かったり、分娩(ぶんべん)時などに骨盤内の神経が障害を受けたりしたことなどが原因とも言われています。女性の場合には子宮脱や尿道瘤(りゅう)などの骨盤臓器脱を合併する場合もあります。

 脱出しないようにするには手術が必要です。大きく分けて経会陰的手術と経腹的手術があります。

 経会陰的手術とは肛門の側から手術をする方法で、代表的な手術方法に「Gant―三輪法」や「Delorme法」があります。どちらの手術も脱出した直腸を縫い縮める方法ですが、それだけでは不十分なため多くの場合、「Thiersch法」と言って緩んでしまっている肛門の皮下に特殊なリングを埋め込むことで肛門がそれ以上に開かないように狭くしてしまう方法と併用します。

 経腹的手術は骨盤の中で肛門の方へ下がってしまった直腸を、元の位置に引っ張り上げ、直腸を再固定する手術です。固定の仕方によっていくつかの術式があります。現在は腹腔鏡を用いた手術が主流になっています。経会陰的手術と比べて症状をとる根治度は高いのですが、全身麻酔をかける必要があります。また再発率が1%程度はあります。再発した際には再度同じ手術をすることもありますし、程度によっては経会陰的手術を行う場合もあります。

 術前には直腸肛門機能検査や排便時造影検査などを行うことになります。特に女性では、子宮脱などの他の骨盤臓器脱が合併することも多く、最近では骨盤臓器脱全般を専門的に診断・治療する医療機関も出てきております。一度専門医を受診することをお勧めします。

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 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(086―485―1755)

 ちくば・あきら 倉敷天城高校、香川医科大学(現・香川大学医学部)卒。栃木県立がんセンター、恵佑会札幌病院を経て、1992年、チクバ外科・胃腸科・肛門科病院に勤務。2000年に副理事長。12年に理事長に就任し、18年から院長兼任。日本大腸肛門病学会指導医、外科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年11月02日 更新)

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