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92歳男性 心臓の複合手術成功 津山中央病院

退院後の状況を話す竹内功明さん(中央)と松本三明医師(右)、竹内さんの長男由明さん

宮原克徳医師

池田陽介さん

大動脈弁置換、僧帽弁形成、冠動脈バイパス

 津山中央病院(津山市川崎)は今夏、重い心臓病を患った90代の男性患者に大動脈弁置換、僧帽弁形成、冠動脈バイパスの複合手術を行い、成功した。リスクは高かったが、治療には手術しかないと、患者本人も家族も同意し、病院の能力を信じて踏み切った。退院した男性は家族とともに生活し、「100歳まで生きられるかな」と言う。執刀した心臓血管外科主任部長の松本三明医師(心臓血管センター長)は「超高齢化が進む日本の医療のモデルケース」と話している。

     ◇

 男性は津山市の竹内功明さん(92)。今年4月から全身の倦怠感、息苦しさなどがあり、かかりつけ医で治療を受けていた。6月中旬、症状が悪化したため津山中央病院の救急外来を受診し、そのまま入院となった。

 ■三つの疾患

 詳しく調べたところ、竹内さんには大動脈弁狭窄(きょうさく)症と僧帽弁閉鎖不全症に加え、冠動脈狭窄が2カ所認められた。大動脈弁狭窄症は、全身に血液を送るポンプの役目をしている左心室と大動脈との間にある大動脈弁が、うまく開かなくなって左心室に負担がかかり、心機能が低下してしまう病気だ。僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間にある僧帽弁がきちんと閉じなくなって血液が逆流する。冠動脈は心臓に酸素と栄養分を供給していて、動脈硬化などで狭くなったり詰まってしまうと狭心症や心筋梗塞を招いてしまう。

 竹内さんは入院以前、身の回りのことは自分でこなしていた。しかし「症状は進んでいた」と松本医師。「このままでは生命の危険がある。根治には手術しかない」と判断し、竹内さんと家族に詳細な説明をした。手術は胸を大きく開き、人工心肺装置を使用して心臓の動きを止める。大動脈弁は人工弁に取り換え、僧帽弁は温存して修復。冠動脈の狭くなっている部分には足の血管を利用してバイパス手術を施す―と言う内容だった。

 ■納得して手術へ

 一方、92歳という高齢もあってリスクは高かった。動脈硬化は進み、心臓の機能も落ち込んでいた。糖尿病も患っている。日本心臓血管外科学会のデータベースをもとに計算したところ、術後30日以内の死亡率(ジャパンスコア)は推定35・1%。脳梗塞や腸管壊死など合併症の危険性もあった。

 迷った家族は手術の根拠や合併症、術後のQOL(生活の質)―などの疑問点を書面にまとめた。それに対し、松本医師らは「今の病態を全て治療するには手術しかない」「術後、死亡するか何らかの合併症が起きる確率は65%」「QOL改善の確率は推測だが40~50%」と、一つ一つの質問に書面で回答した。

 竹内さんの長男由明さん(58)は「説明してもらったことをきちんと理解するため、自分なりに勉強もした。納得した上で、父の手術を受け入れた。地元に心臓外科のスペシャリストがいてくれて良かった」、功明さんは「まあここまできたら、やらにゃあしょうがないわ、と言うところでしたな」と話した。

 松本医師は心臓病センター榊原病院、川崎医科大学胸部心臓血管外科講師などを経て2004年から津山中央病院勤務。11年には心臓血管センターを開設するなど同病院における心臓疾患治療の中核を担う。竹内さんについては「身体状況や家族の希望、当院のスタッフの能力を総合的に評価して手術に踏み切った」と振り返った。

 ■3日後には歩行

 手術は7月17日に行われ、翌18日から心臓リハビリテーションが始まった。担当した理学療法士の池田陽介さんによると、「竹内さんの場合、高齢なので1週間後に歩ければいいと思っていたが、手術3日後の20日には歩き始めたので驚いた。その後もスムーズにリハビリは進んだ」と言う。

 心臓リハビリは、病気で低下した心臓と身体機能の回復、再発予防が目的。座る、立つ、歩く―などと段階的に訓練を進め、安心して日常生活が送れる状態を目指す。津山中央病院は県北で唯一の心臓リハビリ施設。松本医師は「心臓リハビリをすれば術後の回復が明らかに良くなる。早期の社会復帰には欠かせないプログラム」と説明する。

術後1ヵ月で退院 体が楽になり農作業も

 竹内さんは術後1カ月の8月17日に退院。9月15日には退院後初めての受診のため由明さんに付き添われ、津山中央病院を訪れた。

 松本医師 お元気そうですね。

 由明さん おかげさまで、びっくりするくらいです。退院後、自宅でじっとしていたのは2、3日。今は田んぼに出ています。

 松本医師 入院中も病棟を歩いてリハビリに励んでいた。看護師さんがびっくりしていました。

 功明さん 以前は、へたばるようにえらかったが、今は体が楽になった。手術をして良かったと思う。100歳まで生きられますかな。

 松本医師 それだけ元気なんだから大丈夫ですよ。

 主治医の宮原克徳医師=循環器内科=は「経過は順調だ。心臓の弁を治療したことで、血液を送り出すポンプ機能は改善している。ただ、高齢ではあるので体調に気を配って、楽しく毎日を送ってほしい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年11月02日 更新)

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