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(3)集学的治療でがんを克服する 天和会松田病院薬局長 小川大介

小川大介薬局長

 今や生涯のうち2人に1人がかかる病気となったがんは、長らく日本における死因の第1位です。しかし治療の進歩は目覚ましく、多くのがんで生存率が向上し、死なない病になりつつあると言えます。

 標準治療という言葉をご存知でしょうか。「標準治療ではなく、もっと優れた治療をしてほしい」と言われることがありますが、標準治療とは「治療効果や有用性が科学的に証明された、現時点で最良の治療」のことを言います。

 がん治療では手術療法、化学療法(抗がん剤や分子標的薬など)、放射線療法を「がんの三大療法」と呼んでいます。一つの治療法でがんを十分に治療できないと判断された場合は二つ以上の治療法を組み合わせる「集学的治療」を行います。近年の標準治療の多くは集学的治療です。当院は消化器外科専門病院として多くの手術に加え、集学的治療として化学療法にも力を入れています。

 手術と化学療法を組み合わせる場合、先に化学療法を行う「術前補助化学療法」と、後で化学療法を行う「術後補助化学療法」があります。術前補助化学療法は、がんが大きくて手術が難しい時などにがんを小さくして安全に手術できるようにするものですが、標準治療となっていないことがあるので主治医とよく相談してください。

 術後補助化学療法は、目に見えない小さながんが残っている可能性を考えて術後に行うもので、再発率を下げることが科学的に十分証明され、標準治療となっているものがいくつもあります。例えば「胃がんはS1療法で1年間」「大腸がんはCAPOX療法で半年間」などですが、がんの種類によって薬や治療期間が異なるので注意が必要です。

 また、正常細胞とがん細胞の両方に作用する抗がん剤と、がん細胞を狙い撃ちする分子標的薬では副作用の出方が大きく違うため、それぞれの副作用に応じた支持療法(副作用を予防したり軽くする治療)を適切に選択する必要があります。近年は支持療法の進歩も目覚ましく、化学療法による副作用は昔に比べてずっと楽になっています。

 治療法の進歩は、より高度な技術と膨大な知識を必要とし、医師の負担が増えました。政府も医師の負担軽減を重要視し、各分野の専門家の活用を推奨しています。化学療法では、がんに関する専門知識を持った薬剤師が治療法、支持療法、患者説明などにおいて医師と協働することで、より安全で効果的になると期待されています。当院でも、がん専門薬剤師1人(岡山県内認定数14人)と外来がん治療認定薬剤師1人(同23人)が在籍しています。

 最近では、転移のため手術できなくても、化学療法でがんが縮小したら完治を目指して手術を行うことがあります。これはコンバージョン手術と呼ばれ、先進的であり、まだ標準治療とはなっていません。当院はコンバージョン手術も行っていますが、病状によってはできないため主治医とよく相談してください。

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 天和会松田病院(086―422―3550)

 おがわ・だいすけ 岡山大学薬学部卒。岡山県庁、岡山県精神科医療センター、岡山医療センター、倉敷成人病センターを経て2020年4月より松田病院薬局長。日本医療薬学会認定がん専門薬剤師、日本臨床腫瘍薬学会教育委員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年11月17日 更新)

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