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冬場の心臓病気を付けて 心臓病センター榊原病院 廣畑敦副院長に聞く

廣畑敦副院長

 本格的な冬を前に気を付けたいのが心臓疾患だ。日本人の死因では、がんに次いで2番目に多くなっている。心臓は1日におよそ10万回拍動し、何十年間も休むことなく命を支え続けている最も大切な臓器。最近は高齢者を中心に、心臓の働きが弱って命を縮める心不全の患者が増えている。心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)副院長の廣畑敦医師に、病気の概要と日常生活の注意点などを聞いた。

 ―心不全について教えてください。

 いわば心臓がくたびれてしまい、十分な量の血液を送り出せなくなった状態のことです。動悸(どうき)や息切れ、むくみが代表的な症状で、だんだん悪くなって命を縮めます。狭心症や心筋梗塞、弁膜症、高血圧、心筋症などによって心不全となります。当院でも、心不全で入院している高齢の患者さんは増えています。

 冬場には、狭心症や心筋梗塞が多くなる傾向があります。この二つの病気は心臓の表面を走る冠動脈が狭くなったり、血の塊である血栓が血管内に詰まったりして起こります。その原因は、血管が硬くなって弾力性が失われる動脈硬化です。動脈硬化が進むとコレステロールなどが内側にたまって血管内を狭くしたり、血栓を生じさせたりします。血管が詰まって心臓に酸素や栄養分が届かなくなると詰まった部分の心筋が壊死(えし)してしまい、激しい胸痛が生じるのです。

 ―どのようにして治療するのですか。

 主にカテーテル治療とバイパス手術があります。カテーテルによる治療は、手首の動脈から細い管(カテーテル)を入れて心臓まで延ばし、詰まったり狭くなっているところで風船やステントという金属の筒を膨らませて血管を拡(ひろ)げ、血液の流れを良くします。

 バイパス手術は、外科的に胸の真ん中を大きく切って、冠動脈の狭くなっているところをまたぐように血管をつなぎます。最近は肋骨(ろっこつ)の間を小さく開けるだけの手術も行っていますが、条件によってはできない場合もあります。

 ―心筋梗塞に前触れのようなものはありますか。

 心筋梗塞になる人の半分くらいは、前日や数日前に「胸が苦しい」といった発作が起きることがあります。前駆症状と言います。残る半分くらいは突然発症します。典型的には、冷や汗が出るような胸の痛みが前触れなく起き、中には「心臓に火箸を押し当てられるような痛み」という表現をする人もいます。狭心症の場合は症状が出ても次第に治まりますが、心筋梗塞はいったん症状が出てしまうと治まらなくなります。

 ―生活の中で気を付けることは。

 まずは高血圧予防です。例えば、収縮期血圧(最高血圧)が100の人と200の人を比べると、200の人は心臓が2倍働いています。それが長期間続くのですから心臓の負担は大きくなります。血圧の高い状態が続くと血管が傷付きやすくなって動脈硬化も進みます。ですから高血圧の一番の原因である塩分は控えてください。さらに、喫煙は動脈硬化の大きな原因です。血管が締まって狭心症の発作が起きやすくなり、血圧も上がりますので禁煙しましょう。

 心臓を大切にする生活を意識することです。塩分や脂質を控えた栄養バランスの良い食事と適度な運動、リラックスが必要です。食事は和食を中心に、青魚を食べると動脈硬化が起こりにくくなるというデータもあります。運動は定期的に、ジョギングや水泳などを軽く汗ばむ程度にするのが良いでしょう。

 「人は血管とともに老いる」という言葉があります。動脈硬化は20~30代から始まると言われます。年齢とともに動脈硬化はゆっくりと進んでいきますが、高血圧や糖尿病があると、そのスピードが速くなるのです。年相応は避けられませんが、悪化はできるだけ遅らせたい。それが生活習慣改善の目的です。

 ―冬に注意すべき点は何でしょうか。

 これからの季節であれば入浴時のヒートショックです。脱衣所と浴室が寒いのに、熱い湯につかった場合、血圧が短時間で上がったり下がったりします。すると血管内に血栓ができやすくなり、急性心筋梗塞や脳梗塞を起こしかねません。急激な温度の変化は避けるべきで、脱衣所や浴室はあらかじめ暖めておくなどの工夫が必要です。

 ―コロナ禍の中、心臓病を患っている人はこの冬をどのように過ごせばいいでしょうか。

 心臓病がある患者さんが新型コロナウイルスに感染すると、より状態が悪くなる可能性があるので注意が必要です。手洗いや手指の消毒、マスクの着用など、予防対策に努めてください。街中ではソーシャルディスタンスを維持し、3密を避け、危険なところには近寄らないことが重要です。それでも発熱やせき、体調不良などがあれば、かかりつけ医など医療機関に早めに行って、検査をしてもらってください。

 ひろはた・あつし 香川県大手前丸亀高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、津山中央病院、米国スタンフォード大学循環器内科などを経て、2006年から心臓病センター榊原病院に勤務。09年から循環器内科主任部長、19年から副院長。医学博士。日本内科学会認定内科医・指導医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定高血圧専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医、代議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年11月17日 更新)

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