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第7部 あすへつなぐ (3) 安全対策 組織挙げてミス防止

業務開始前に行う指さし呼称。声と体でミスがないよう気を引き締める=倉敷中央病院

 午前8時半。倉敷中央病院(倉敷市美和)の臨床検査科は、検体の受け入れ準備に入った。

 「では、朝礼を始めましょうか」。村田純子副技師長の合図で、スタッフ8人の手が一斉に止まる。

 「遠心機、よし! 指示書、よし! 採血管、よし!」。1人の声に合わせ、全員が復唱。同時に、ぴんと伸ばした人さし指を、耳元から勢いよく振り下ろした。

 各診療科から持ち込まれる血液や尿といった検体は1日平均3千、多い日は4500に上る。「間違えれば正確な診断ができなくなる。ミスは許されない」と村田副技師長。朝礼後、全員が顔を引き締め、業務を始めた。

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 工場の生産現場などで採用される指さし呼称。起こり得る危険を予知し、回避する手段の一つだ。ミスを6分の1に減らせるとする研究報告もある。

 「重要な操作や確認の際、意識的に注意を向けることができる」と同病院医療安全管理室長の新居伸治さん(62)。2004年、着任と同時に院内に取り入れた。

 元サラリーマン。30年以上、化学工場の生産現場を中心に歩んだ。安全対策に本腰を入れる同病院に請われて再就職した。

 同病院ではそれまで、医療事故には委員会などを立ち上げて個別に対応してきた。新居さんは、注射や点滴、薬の調剤など医療行為の工程を洗い出し、ミスが起きやすい個所を明示した「KY(危険・予知)マップ」や、職場別に安全目標を立てるなど、生産現場では当たり前の対策を次々に導入した。

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 「気をつけてもミスは起きることがある。人間は間違いやすい」。岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)の三村哲重副院長は、自戒を込めて言う。

 日本医療機能評価機構(東京)によると、2008年に全国の国立病院機構や大学病院など約270病院で起きた医療事故は1440件。そのうち患者が死亡にいたったのは115件に上る。

 さらに、一歩間違えば医療事故になりかねない「ヒヤリ・ハット」事例になるとケタ違い。1137医療機関から22万3981件もの報告が寄せられている。

 ミスや事故をどう防ぐか―。岡山済生会総合病院は今年1月、システムの一つを大きく変えた。

 バーコードによる輸液管理。患者、看護師、輸液それぞれに取り付けたバーコードを読み取り、すべて合致しないと開始許可が画面に表示されないようにした。

 同病院の看護師は約500人。新人もいればベテランもいる。三村副院長は「だれが担当しても間違いの起こらないシステムづくりが重要」と話し、将来的には薬剤も対象に加える計画だ。

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 週1度、各部署の医療安全委員が会議室に集まる。ヒヤリ・ハット事例を報告し合い、原因分析や再発防止策を練る。3年前、三村副院長が立ち上げた。

 薬や食事が間違って配られた▽患者がベッドわきで転倒した―など事例はさまざま。

 「報告された職員は重箱の隅をつつかれるようで嫌だろう。でもどんな小さなことも隠さず挙げてほしい」と三村副院長。

 「安全で安心できる病院にするには、『間違い』の情報提供と共有は欠かせない。そうした日々の積み重ねが大切だ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年06月19日 更新)

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