文字 

(1)「低侵襲手術」って何ですか? 岡山市立市民病院外科医長 池田宏国

池田宏国氏

 最近、医療関係のサイトや病院のホームページなどで「低侵襲手術」「低侵襲治療」という言葉をよく目にすることがあると思います。「侵襲」というのは治療に伴う肉体・精神的な「ダメージ」です。「低侵襲手術・治療」というのはそういった「ダメージ」をより少なくすることを目的とした先進的治療・手術方法と考えてください。

 私の専門である外科分野では、傷を小さくする小切開手術、カメラを使った内視鏡下手術・ロボット手術などがこれに当たります。従来の手術方法と比べて全体に傷が小さくなるため手術後の痛みが小さく、体力の回復が早く、整容性・美容面も優れているというのがメリットです。

 岡山市立市民病院外科では、頸部(けいぶ)=主に甲状腺▽胸部=肺がんなどの呼吸器疾患、乳がんなどの乳腺疾患▽腹部=胃・大腸などの消化管、肝胆膵(すい)、ヘルニア(脱腸)、急性腹症=の疾患を取り扱っており、全ての領域で「低侵襲手術」を標準的に行っています。

 頸部領域では拡大鏡・神経モニタリングシステムを用い、小切開手術(従来の手術の1/2~1/3程度の傷の大きさ)に取り組んでいます。胸部・腹部領域では5~10ミリのポート(筒)とカメラを使用した内視鏡下手術を行っています。

 ヘルニアについては、本年7月より専門外来(ヘルニア外来)を開設、この分野での日本内視鏡外科学会技術認定医(岡山市内唯一)が在籍し、手術・診療にあたっています。

 岡山市立市民病院は『断らない救急医療』をモットーに24時間365日全ての救急患者を受け入れて初期診療を行う『岡山ER』に力をいれていることから、急性腹症・緊急手術数が多いのですが、そのほとんども「低侵襲手術」により対応しているところも特徴の一つです。

 しかし、残念ながら、どれだけ手術機器や技術が進歩して、傷の痛み、体力低下、手術合併症などが減ったとしても、決してゼロになるわけではありません。外科手術・治療で患者さんが被る侵襲・ダメージは「手術による傷の痛み」「治療に伴う体全体の体力低下」「肺を切れば呼吸機能、胃を切れば食事量が減るといった臓器機能の低下」「治療や病気への不安」「金銭的問題」など多岐にわたります。

 「低侵襲手術」というのは大事な要素ではあるのですが、これによって軽減できるダメージは一部分でしかありません。岡山市立市民病院では、外科治療・手術を受ける患者さんやご家族が被るさまざまな侵襲・ダメージを軽減することが本当の意味での「低侵襲」であり、これらを多方面から多角的にサポートするためには、医師・看護師・リハビリ・薬剤部・ソーシャルワーカーなど数多くの職種の協力が必須であると考えています。

 今回開設された「低侵襲手術センター」を活用し、市民の皆さまへの「低侵襲な外科治療」の提供、患者さんとご家族に寄り添う地域に密着した医療を実践していきたいと思います。

     ◇

 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 いけだ・ひろくに 岡山大学医学部卒業。神戸市立医療センター中央市民病院、神戸市立医療センター西市民病院、岡山労災病院、岡山大学病院を経て2020年4月より現職。日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年12月07日 更新)

ページトップへ

ページトップへ