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岡山市立市民病院「低侵襲手術センター」設置 佃和憲外科主任部長、藤井攝雄PFMセンター課長に聞く

佃和憲外科主任部長

藤井攝雄PFMセンター課長

 岡山市立市民病院(岡山市北区北長瀬表町)は、院内に「低侵襲手術センター」を設置した。外来診療の段階から患者の身体や生活状況を詳しく把握し、手術や入退院を支援する「PFM(Patient Flow Management)」の手法を活用。問題があれば早期に対処し、リスク軽減を図る。入院中の診療計画もあらかじめ全体像を示して説明し、手術などにまつわる不安解消に努める。センター長の佃和憲外科主任部長、全体の調整役を担う入退院管理支援センター(PFMセンター)の藤井攝雄課長に、新たな取り組みについて話を聞いた。

 ―どのような医療を目指しているのでしょうか。

  名称は「低侵襲手術センター」ですが、手術だけではなく、当院における医療全体を患者さんにとって負担の少ない低侵襲にしたい、つまり、外来から入院、手術、退院までを通して「身体と心に優しい治療」を提供していく、そういう方針を掲げています。

 低侵襲な治療は以前から各診療科・部門ごとには取り組んできました。例えば消化器外科では、手術は腹腔鏡(ふくくうきょう)による傷の小さな手術が多くを占めていますし、それに伴い入院日数も大幅に短縮しています。ただ、手術には外科や放射線科、麻酔科、リハビリ、入退院管理支援など多くの職種が関わります。各科・部門ごとではなく、個々の患者さんの視点から「優しい治療」を考えようと今回、外来受診から退院に至るまでの流れを整理し、関係する部署の役割を明確にして院内の意識統一を図りました。これにより、「医療の質」と「患者満足度」のさらなる向上を目指します。

 ―その中心的な役割を担うのがPFMセンターですね。

 藤井 PFMセンターは医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士、医療ソーシャルワーカー、事務職員らを含めて100人規模の組織となります。外来から入院、手術、退院に至るまでを一括管理します。その役割は多方面にわたり、入院・手術に際しての説明や問診▽手術前に必要な検査と評価▽手術前に中止が必要な薬剤の確認と、服薬・休薬の指導▽栄養状態の把握と指導▽口腔ケアと歯科医院との連携▽病床管理▽地域の医療機関との連携―などがあります。

 重要な仕事の一つとしてクリニカルパスの作成があります。入院中の診療計画を一覧表にした文書で、入院期間や手術の予定日、いつ、どのような検査を行い、それが手術にとってどのような意味を持つのか、手術前後の注意事項などもこの文書を元に外来受診の段階から説明します。

 自宅での生活状況を聞き取り、治療にかかる経済的な負担の軽減や、「仕事は続けられるのだろうか」「自宅に帰れるだろうか」といった退院後の療養生活についても一緒に考え、準備することで、患者さんの不安解消と意思決定の支援に努めます。

 ―新たな取り組みに際しての課題は何でしょうか。

  主役はあくまで患者さんですが、医療の現場では受け身になりがちです。主体的な参加をいかに促すかにあると思います。

 現在、患者さんの多くは高齢で、高血圧や糖尿病など複数の疾患を併せ持っている人も少なくありません。だから手術の前には血液検査や心電図、エックス線検査、呼吸器検査など、たくさんの検査を行います。場合によっては糖尿病や心臓疾患など基礎疾患の治療も必要となります。

 これらは全て手術や合併症のリスクを乗り切り、早期に社会復帰していただくためのプログラムです。そうした検査や治療を「そのように指示されたから」ではなく、内容を理解した上で「治療に積極的に参加するんだ」という意識で受けていただきたいのです。

 藤井 そのための丁寧な説明はセンターで行います。中身が分かっているから患者さんは安心できるし、自ら参加することで前向きな気持ちが生まれ、手術や退院後の生活に向けての準備にも効果が上がります。そこに意味があると思います。

 ―患者に自分の病状に関する自覚を持ってもらうということでしょうか。

  手術前の準備が必要なのは病院側だけではありません。例えば、口の中には多くの細菌が存在しますが、歯周病のため歯肉が炎症を起こしたり歯がぐらついていると、手術中の人工呼吸の際に細菌が胸の奥に入り込んで肺炎の合併症を起こす原因になりかねません。そういった患者さんには入院前に歯科の受診を促しているのですが、「自分の手術とは関係ない」と理解をいただけないケースがこれまでにもありました。

 また、手術の前には休薬しなければならない薬もありますが、自分がどんな薬を飲んでいるのかご存じない患者さんもいるのです。

 ―今後も高齢化は一層進みます。退院後の在宅医療が重要になっています。

 藤井 急性期病院である当院として、在宅医療にどういった関わりができるのか、検討し始めたところです。地域のクリニック、訪問診療を行っている先生方との連携を深めながら、当院の看護師や医療ソーシャルワーカーによる家庭訪問や、往診では管理が難しいような状態となった患者さんのサポートが、当院として在宅に関われるところかなと思っています。

 つくだ・かずのり 岡山大学医学部卒。消化器外科・一般外科を専攻。岡山大学および米国ペンシルベニア大学でがんの遺伝子関連の研究を行った。岡山赤十字病院、岡山大学病院で消化器外科、腫瘍外科の診療を行い、2017年10月から現職。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医など。

 ふじい・せつお 川崎医療福祉大学医療技術学部卒。2016年より岡山市立市民病院に勤務。現在は入退院管理支援センター課長(地域連携・入退院支援・ベッドコントロール・クリニカルパス・医事業務等を担当)。がん治療サポートセンター兼務。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年12月07日 更新)

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