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第7部 あすへつなぐ (7) 問題患者 毅然と対応 意識改革も

院内を巡回する倉敷中央病院の大田課長。顔見知りとなった患者が話しかけてくることもある

 「採血に失敗して土下座させられた」

 5月20日。「クレームや暴力への対応」をテーマに岡山県看護協会が開いた研修会。グループ討議のまとめで常軌を逸した患者の要求が報告されると、会場がざわついた。

 同じテーマだった昨年より、約20人も多い90人の看護師が参加。医療者への暴言や暴力、セクハラ、不当要求といったモンスターペイシェント(問題患者)に対する現場の困惑ぶりをうかがわせた。

 「むちゃな要求ははっきり断り、他の多くの善良な患者の医療環境を守ることが大切」と講師をした川崎医科大付属病院(倉敷市松島)事務部の森定 理 ( おさむ ) 参与(58)。 毅然 ( きぜん ) とした態度を求める一方で、個人ではなく組織として対応することの必要性を訴えた。

 全日本病院協会が2008年に公表した調査では、回答した1106病院の52%で直近1年間に患者や家族からの暴力が発生、その数は6千件を超えた。

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 「患者の迷惑行為をどこまで容認すべきなのか。医療人だけでは判断が難しい」と倉敷中央病院(同市美和)の小笠原敬三院長(62)。1日約2900人の外来患者が訪れる同病院は積極的な外部人材の登用を進めている。

 防災管理課の保安担当は大田幹夫課長(61)ら18人。うち8人が岡山県警OBだ。大田課長は岡山西署長を最後に定年退職、昨年4月から勤務する。

 同病院は、大声を出して毒づく(レベル1)から凶器所持(同6)まで、6段階で示した対応マニュアルを作成。レベル2(しつこくどなり話が終わらない)以上は防災管理課へ連絡している。

 「問題患者は診療室へ居座るなどして、他の患者の治療に支障をきたすことが少なくない」と大田課長。悪質なケースには警察への通報や弁護士を通じて敷地内への「出入り禁止」を通告することもある。

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 「問題患者等対応検討会」(MPA)。岡山、広島、香川県内などで350床以上を持つ15病院と顧問弁護士が実際に起きたトラブルの対処法を検討するため、08年8月に発足させた。他の医療機関で参考になる事例集の策定も目指す。

 事例検討などを通じて、トラブル防止には医療現場の意識改革も欠かせないことも浮き彫りになった。

 MPA会長を務める川崎医科大付属病院の森定参与は「問題患者の背景にあるのは権利意識の高まりや医師の権威低下」とした上で、「医師らが患者としっかりコミュニケーションがとれていなかったり、不用意な発言がひきがねになることもある」と指摘する。

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 難しい専門用語を使っていないか。患者から目線をはずしたり、服装の乱れはないか…。倉敷中央病院の小笠原院長は、医療従事者の態度についても厳しくいさめる。

 「問題患者がすべて悪いのではない。多忙な医療現場も患者と向き合う余裕がなくなっている」と反省する。

 6月初旬の同病院。大田課長が院内を巡回しながら、一人の女性に目を留めた。過去に何度か問題を起こした患者だった。穏やかな口調で話しかけた。

 「今日は診察ですか」「経過はその後どうですか」

 不満をじっくりと聞き、問題があれば医師らに注意を促すのも役目だ。

 毅然さと細やかさと。試行錯誤は続く。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年06月24日 更新)

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