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53 小さな友達 感動の体験発表

家族や担任の先生に見守られて体験発表する阿部磨呂君。聴衆の感動を呼んだ=2009年11月28日、岡山県立美術館ホール

 移植を通じ、見ず知らずの人たちと縁がつながり、交友の歯車が回り始めた。

 2009年11月28日、岡山県立美術館(岡山市北区天神町)で開かれたチャリティーコンサート。シャンソン歌手佐川由紀子さんが「百万本のバラ」や「枯葉」、「千の風になって」などをしっとりと歌い上げた。

 バックを務めたピアノの 上里 ( あがり ) 知巳 ( ともみ ) さんはブラジルで腕を磨いたベテラン。チェロの諸岡由美子さんは映画「おくりびと」の演奏シーンにも出演した若手実力派。満員の聴衆を楽しませてくれた。

 休憩時間に「岡山肝移植交友会」の設立を呼びかける機会をいただいた。私がやぼなあいさつをするよりも、適任者がいる。岡山市立岡山中央小6年生だった阿部磨呂君。08年5月ごろ、移植後の一般病棟で共に闘病した私の小さな友達だ。

 彼はぐんぐん元気になり、病棟を駆け回っていた。当時は回復ぶりに勇気づけられると同時にうらやましくもあったのだが、内実はとても苦しかったらしい。200人を前に発表した彼の体験談を読んでいただきたい。

 僕は生まれつき、胆道閉鎖症という病気で、赤ちゃんの時に手術をしました。手術をしても、胆管炎や、食道静脈 瘤 ( りゅう ) ができて、吐血や下血で入退院を繰り返していました。

 4年生の冬、吐血をした後、下血が止まらなくなりました。腹水もおなかがはちきれるくらいたまり、歩くのも困難でした。

 輸血も何度もしました。そして08年4月24日、5年生の春に肝移植をしました。

 手術の前日は不安と怖さで眠れませんでした。手術室に入る時は、家族と、10年前に外国で肝移植をしたお姉さんが見送ってくれましたが、涙が止まりませんでした。

 この時、お母さんの目にも涙が見えました。今まで病気の事で泣かなかったお母さんが泣いていたので頑張ろうと思いました。でも本当は不安でいっぱいでした。

 手術後のICU(集中治療室)では昼か夜かわかりませんでした。機械の音が鳴り響くとおかしくなりそうでした。その時の事を思い出すと胸が苦しくなりますが、今はこんなに元気です。

 移植をすれば完全に元気になると思っていたけど、今でもよく腹痛が起こります。腸が癒着しているからだそうです。

 学校でも痛みがでます。そんな時、僕には言葉に出さなくても体調の変化に気づき、声をかけてくれる友達や先生がいます。肝臓移植の説明本まで読んでくれて、今でも助けてくれる友達がいます。この移植で僕の事を分かってくれる人が増えました。

 僕は今でも人の助けが必要です。同じような悩みを相談できる所はないかと思っていたら、移植の会ができると聞いてとてもうれしかったです。

 このコンサートのお金の一部が移植の会を支えてくれるそうです。本当にありがとうございます。これからも頑張るために皆さんの力を貸して下さい。

 …当日は聞いていて、うるうるが止まらなくなった。阿部君、ありがとう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年07月05日 更新)

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