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(6)骨粗鬆症について 岡山赤十字病院第一整形外科部長 リウマチ科部長 リハビリテーション科部長 小西池泰三

医師、看護師、薬剤師、リハビリテーションなどからなる多職種でのチーム

 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は非常に骨折しやすい状態で、寝たきりや要介護状態になる大きな原因となっています。先代の東京大学整形外科教授・中村耕三先生は「高齢化や骨粗鬆症の問題は国難である」と言われています。この言葉の意味を私は「限られた国家予算の中でいかに高齢者の生活の質を保つかを国民全体で考える必要がある」と考えています。

 近年、骨粗鬆症の研究は進歩し、「大腿骨(だいたいこつ)近位部骨折(脚の付け根、股関節周囲の骨折)や脊椎椎体骨折(背骨の骨折)があれば骨粗鬆症の治療を開始するべき」とか「きちんと治療すれば続発する骨折の危険性を半減できる」といったことが分かってきました。しかし現在でも骨粗鬆症の治療が必要な患者さんで実際に治療を受けておられるのは半数以下です。

 当科で大腿骨頸部(けいぶ)骨折の手術をしながら、1年後に反対側を骨折し、当院に再度入院してこられた患者さんがおられました。この間、骨粗鬆症は未治療でした。また、高齢化の進行により、以前では考えられないような重症の骨粗鬆症の患者さんがおられます。「もう少し早く治療を開始できなかったのか」と残念に思うこともよく経験してきました。

 このことから、2012年から医師、看護師、薬剤師、リハビリテーションなどからなる多職種でのチームによる骨粗鬆対策を開始しました。この骨粗鬆対策チームの調査では、岡山赤十字病院全体の大腿骨近位部骨折と脊椎椎体骨折の既往がある入院患者さんは1カ月で延べ約1500例ありますが、実際に治療を受けておられたのは数例でした。全ての入院患者さんで大腿骨頸部骨折と椎体骨折の既往は入院時にチエックされるにもかかわらず、ほとんどの患者さんは骨粗鬆症の治療の必要性について説明されることなく退院されていました。このことは他の急性期病院でも同様と思います。

 多忙な主治医は手術や本来の疾患についてご説明するのに精いっぱいです。骨粗鬆症対策が重要であるという認識は全国に広がっていますが、「いつ、誰が、誰に、どのように行うべきか」について一定のものはないのが現状です。

 骨粗鬆症の治療は継続が重要です。そのためには急性期病院だけではなく転院先のリハビリテーション病院や診療所の先生方と地域で取り組めるような体制作りが必要です。具体的には「急性期病院や転院先のリハビリテーション病院では治療の必要性についてご説明し、治療の開始は診療所で行う」ということです。

 日本骨粗鬆症学会は、病院と診療所、地域社会をつなぐ人材として骨粗鬆症マネージャーを養成しています。当院も5人の骨粗鬆症マネージャーが活動しています。

 当院では院内や地域の先生方と骨粗鬆症についての勉強会、骨粗鬆症連携手帳の作成などを行ってきました。これらの活動を通じて骨粗鬆対策において最も重要なのは理念であり、その理念とは「治療の必要性がある骨粗鬆症の患者さんにその説明責任を果たす」ことであると痛感しています。このことは医師だけでなく看護師、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーなどの協力があれば可能ではないかと考えています。

 日本が豊かであった約30年前は地域で骨粗鬆症の検診が盛んに行われていましたが、効果的な治療薬はありませんでした。現在は有用な治療薬があります。

 骨粗鬆症治療が必要な患者さんの続発する骨折や重症化が予防され、地域の高齢者の生活の質が向上することを願っています。身内やお知り合いの方に大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折の既往があり骨粗鬆症が未治療の方がおられたら、まずはお近くの診療所の先生にご相談ください。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)。連載は今回で終わりです。

 こにしいけ・たいぞう 岡山大学医学部卒。岡山市民病院、国立岩国病院、国立岡山病院、笠岡第一病院、赤穂中央病院を経て1999年より岡山赤十字病院勤務。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医、日本リハビリテーション学会専門医、日本リウマチ学会専門医。医学博士。岡山大学整形外科臨床教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年01月18日 更新)

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