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(2)心臓弁膜症に対するカテーテル治療(切らない手術) 心臓病センター榊原病院副院長(心臓血管外科)吉鷹秀範

吉鷹秀範氏

 心臓には4カ所に逆流防止弁がついており、その逆流防止弁が壊れることにより発症する病気が心臓弁膜症です。そのうちで頻度的に多く、生命危機に陥りやすい病気が大動脈弁狭窄(きょうさく)症(AS)と僧帽弁閉鎖不全症(MR)となります。

 この両疾患は、息切れ、むくみ、不整脈などの初発症状で発病に気がつくことが多く、放置した場合、狭心症、失神、突然死といった生命に危険が及ぶ状況に陥ることになります。ASに関しては、無治療であれば症状発現後の2年生存率は50%、5年生存率は3%程度と言われています。その原因はいずれも加齢(老化)が大きく関与しており、高齢者に多い傾向があります。

 心臓弁膜症治療の原則は、壊れた弁を修復あるいは人工弁に取り替える大がかりな開胸手術が必要でした。しかし、2013年からASに対するカテーテル治療(TAVI(タビ))、18年からMRに対するカテーテル治療(Mit(マイト)raClip(ラクリップ))が開始され、その治療の選択肢が増えました。この治療法は外科的治療とカテーテル治療の両者の技術が必要であり、高度な医療技術チーム(ハートチーム)および医療設備(ハイブリッド手術室)を要することから、認可施設においてのみ可能となっています。

 TAVIについては、保険での治療が始まってすでに7年が経過しており、使用される機器も改良され、現在ではより安全確実な第4世代人工弁の使用が可能となっています。さらに、壊れた人工弁に対するTAVIでの再人工弁植え込み治療も18年より可能となっており、この7年間で医療機器およびハートチームは目まぐるしく進化しています。

 心臓病センター榊原病院においては約550例(平均年齢86歳)のTAVI治療を実施していますが、現時点で病院内死亡率0%となっており、その治療の安全性がうかがわれます。

 一方、MitraClipとは、胸を切らずにクリップを用いて壊れた僧帽弁を縫い合わせる治療です。開胸手術に比べて治療効果はやや劣るものの、胸を切らずに治療ができることから、体力消耗が少ないというメリットは大きく、体力が低下した高齢者などにおいては福音と考えられます。このMitraClipも20年に新しい改良機器が導入され、治療効果はより改善し、さらに適応が広がっております。

 TAVI、MitraClipはいずれも高度な医療技術を要するため、一定の水準を満たした医療施設でのみ治療可能となっています。20年12月現在、国内での実施認定施設はTAVIが186施設(岡山県内3施設)、MitraClipが59施設(岡山県内2施設)です。

 現在、世界的にはカテーテルによる僧帽弁置換術(TMVR)、三尖弁(さんせんべん)修復術も検討されており、将来的には心臓弁膜症は切らずに治る日が来るかもしれません。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 よしたか・ひでのり 高松高校、香川大学医学部卒、同大学院修了。1991~93年、循環器内科医として約1000例の心臓カテーテル検査、治療を経験。その後、国立循環器病センターで心臓血管外科医としてスタート。96年から心臓病センター榊原病院に勤め、2019年から現職。心臓血管外科専門医(指導医)、TAVIプロクター(指導医)、胸部・腹部ステントグラフト指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年02月16日 更新)

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