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(3)尿漏れ、股の異物感で悩まれていませんか? 倉敷成人病センター泌尿器科医長 有地直子

理学療法士の柏野三紀子(左)と横尾春香(右)、医師有地直子(中央)

 女性泌尿器科は「おしっこトラブル」や「おしもの悩み」を抱える女性を治療するところです。尿が近い、漏れる、膣から何かが触れる、下腹部に痛みや不快感がある…などの症状で困っている女性のための駆け込み寺的な存在です。

 ■女性の骨盤の構造とその病気・症状

 女性の骨盤底は筋肉や靭帯(じんたい)で構成され、その上にある骨盤内の臓器(子宮、膣(ちつ)、膀胱(ぼうこう)、尿道、直腸)を、さながらハンモックでつり下げたように支えています。妊娠やお産により子宮や膣、その近くの骨盤底を支える筋肉や靭帯は、赤ちゃんの通り道となるため、どうしても傷ついてしまいます。お産以外でも、ふくよかな方や、便秘の方、仕事などで重い物を頻繁に持ち上げている方は、骨盤底の支えが緩みやすく、ひどくなると日々の生活にも影響してきます。その代表が「尿失禁」と「骨盤臓器脱」です。

 ■尿失禁のこと

 成人女性の3~4人に1人は尿失禁を経験していると言われています。その約6割を占めるのが、せきやくしゃみ、重い物を持ち上げておなかに力を入れると漏れる腹圧性尿失禁です。尿道の周りの支えや、筋肉が緩むと尿道がぐらつきます。そのため、ふいにおなかに力が入ったときに我慢が利かず、尿が漏れやすくなります。このタイプの方には、尿道、膣、肛門周囲の筋肉を含む骨盤底筋群を鍛える骨盤底筋リハビリテーションをお勧めします。

 当院では2019年5月より専門の女性理学療法士による骨盤底筋リハビリテーションを行っており、マンツーマンで指導を受けることができます。

 リハビリに加えて、尿道を閉じる力を高める薬を処方することもありますが、その効き目が弱い方や失禁のひどい方には手術が必要になります。腕を骨折した時の三角巾の要領で尿道を1・5センチ幅の長細いメッシュテープで支え、体動時の尿道のぐらつきを安定させることで漏れにくくするものです。手術時間は通常1時間以内で入院も3~5日と短期間です。

 ■骨盤臓器脱のこと

 70歳前後の女性に多く、子宮のつり上げ機能や膣の壁が緩むことで、膀胱や子宮、直腸がピンポン玉のように膣から飛びだしてくる病気です。30~40歳代の若い女性にも見られます。出産を経験した4割もの女性がこの病気を抱えていると言われています。

 初期の骨盤臓器脱は骨盤底筋リハビリテーションで進行を遅らせたり、膣に入れるリング状の装具や股の部分を引き上げるサポーター付きガードル型の下着をつけ、膣から臓器が飛びださないように工夫して生活する場合もあります。

 しかし、根本的な治療は手術しかありません。おなかに1センチ程度の小さな穴を4カ所開けて、メッシュを膣の前後に挿入し広げて縫い込みます。このメッシュが膣の弱くなった支えを補強するフェンスの役割を果たし、臓器が飛びだすのを防ぎます。

 当院泌尿器科では2015年より腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いた仙骨膣固定術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)を開始し、さらに昨年からはロボットを用いた仙骨膣固定術も始めました。腹腔鏡手術、ロボット支援手術いずれも手術時間は2~3時間で、傷が小さいので手術翌日から歩行・食事が可能となります。入院期間は5~10日程度です。

 一人で悩まず専門医へご相談ください。当院では無料の電話相談を行っています。月~金曜の午前11時~午後1時、090―6844―2111。

 ありち・なおこ 福山暁の星女子高等学校、島根医科大学卒業。島根大学医学部附属病院、兵庫県立西宮病院などを経て2020年4月倉敷成人病センター泌尿器科医長。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡学会泌尿器腹腔鏡技術認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年03月01日 更新)

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