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(中)治療の基本は食事と運動

入院中、提供されたのは1日1800キロカロリーで塩分6グラム未満のコントロール食。ある日の昼食を紹介すると、ご飯200グラムに牛肉のしゃぶしゃぶ風、白菜と小松菜などの炒め物、レンコンやニンジン、ひじき、エビなどのサラダ。毎回の食事が糖尿病治療のための実践例になっていた

 教育入院の期間中、糖尿病教室に参加した。月曜日から金曜日まで、午前と午後に1時間のプログラムが組まれ、食事療法や運動療法、何種類もある飲み薬の特徴や副作用、インスリン注射のポイントなどを医師や看護師、管理栄養士らが講義した。

 ■バランスが大切

 治療の基本は何と言っても食事にある。血糖値を上げる最大の要因は、和菓子やケーキ、ご飯やパン、麺類、芋類、果物など、いろんな食品にたくさん含まれている糖質だからだ。

 糖質は体の主要なエネルギー源だ。とらなければ血糖値は上がらないが体力は落ち、食事は味気ない。糖質を減らして脂質やタンパク質が中心の食事にする、糖質制限食を実践している人もいるが、私は慢性すい炎があるため脂質の取り過ぎは体に良くない。

 健康な人なら少々食べ過ぎても食事に見合う量のインスリンがすい臓から分泌され、血糖値を正常範囲内にコントロールしてくれる。私の場合この仕組みが破たんして、分泌がほとんどないので食前の注射によるインスリン補給が必要だ。注射の量は、食事の量や内容が適正であることを前提に主治医と相談の上で決めている。

 ただ、外食の場合は思ったような食事内容にならないことも多い。インスリンの効果に比べ、糖質の摂取量が少なければ低血糖になってふらふらする。その兆候があったら砂糖やアメなどをすぐに口にするよう主治医から言われている。一方、糖質の方が多ければ高血糖の状態は解消されない。長く続くと大小の血管を傷付け、腎症、網膜症、神経障害のほか、動脈硬化が進んで狭心症や心筋梗塞などを起こしかねない。

 好きなカツ丼定食やどら焼きは避けなければと思うたび、小さなストレスがたまる。食べたければ注射の量を増やせばいいと思うこともあるが、それでは食事療法の意味がない。

 インスリンは別名「肥満ホルモン」ともいい、糖質を中性脂肪に変えて脂肪組織に蓄える働きもある。太るとインスリンの効果は薄れるし、高血圧や動脈硬化が悪化する。いろんなところに落とし穴やジレンマがあり、バランスが大切だ。

 今の私は糖尿病教室の教えに沿って食事をしている。糖質の消化・吸収を遅らせ、食後の急激な血糖値上昇を抑えられるよう、野菜やキノコ類など食物繊維が豊富な食材を多めにし、最初に箸を付けている。しっかりかんで、1回の食事に15分くらいはかけるようにもしている。脳の満腹中枢が満足感を感じ始めるのは約10分後なので、食べ過ぎを防げるという。

 ■30分歩いて103キロカロリー

 治療のもう一つの柱が運動だ。川崎医科大学附属病院のテキストなどによると、運動をすれば、消費エネルギーが増えて太りにくくなる▽コレステロールや中性脂肪が低下して高血圧や脂質異常症の改善に効果がある▽筋肉でブドウ糖の利用が促進されるので血糖値が下がる▽ストレス解消になる―という。

 例えば体重60キロの私が普通に30分歩いたとして、消費するエネルギー量は約103キロカロリーになる。家事が意外とよい運動になり、30分間掃除機を使うと約90キロカロリー、炊事は約87キロカロリーだ。食事に換算すると、ご飯の小盛り一杯(100グラム)が168キロカロリー、食パン1枚(60グラム)が160キロカロリーほどなので、50分前後の歩行や家事で相殺される。この時間を長いとみるか短いとみるかは見解が分かれる。運動のタイミングは、血糖値がピークとなる食後1時間ぐらいが良いとされる。

 毎日記録している血糖値の変化を見ると、少し早足で、1日にトータルで40~50分歩く、これを続けるだけでも数値は少し安定してくるような気がしている。

 運動は気分転換になり、ストレスを和らげてくれるのは間違いない。ストレスを感じるとコルチゾールやアドレナリンなどのホルモン分泌が増え、血糖値を上げたりインスリンが十分に働けない状態になるという。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年04月05日 更新)

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