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低侵襲治療を実施 川崎医科大附属病院整形外科 中西一夫副部長 腰や臀部の痛み緩和 腰椎にカテーテル挿入、癒着はがす 

中西一夫副部長

 川崎医科大学附属病院(倉敷市松島)整形外科副部長の中西一夫医師(脊椎主任)は、なかなか治らない腰や臀部(でんぶ)、下肢の痛みを緩和する低侵襲治療「経仙骨的脊柱管形成術(TSCP)」に取り組んでいる。根治を目指して背中を大きく切開する手術とは違い、腰椎に挿入した細い管(カテーテル)で痛みの原因となっている癒着をはがして症状を和らげる治療で、体への負担が少ないのがメリット。根治はできないが、高齢といった身体的な理由などで手術が受けられない患者の「痛みから解放してほしい」というニーズに応えている。

 対象となるのは腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症、腰椎変性すべり症など。これら疾患の治療は、薬などで症状が改善しない場合に全身麻酔による手術が提案される。入院に2~3週間、退院後もしばらくは安静が必要だ。

 しかし「基礎疾患があって手術のリスクに耐えられない高齢者は増えている。さまざまな事情で長期間入院するわけにはいかないと悩んでいる患者さんもいる」と中西医師は言う。そうしたニーズに応えようと、脊椎治療の第一線に立つ国内各地の医師とともに研究会をつくり、TSCPによる治療に取り組んできた。

 脊椎には脊柱管というトンネル状の空間があり、そこには神経の束である脊髄と、それに続く馬尾(ばび)神経が硬膜に包まれて通っている。中西医師は「脊柱管内で馬尾神経を包む硬膜が圧迫されると、炎症が生じて神経の腫れや周辺の組織と癒着が起きる。難治性の腰痛や下肢痛の中には、その癒着が原因となることがある。癒着をうまく剥がすと痛みは治まる」と説明する。ただ、CTやMRIでも癒着の存在はよく分からず、外部から特定するのは難しいという。

 TSCPは、局所麻酔で脊椎最下部の仙骨(尾てい骨の少し上)からカテーテルを挿入=イラスト。エックス線画像でカテーテルの位置と患者の反応を確かめながら痛みの原因部分を探り当てると、カテーテルの先から生理食塩水を流し、癒着を水圧などで剥離する。癒着している部分は炎症を伴っているので、痛みや炎症を抑える薬も直接注入する。治療時間は平均で20分弱、出血量は数グラム。治療後は多くの患者で痛みが半減したといい、2018年4月に保険適用になった。

 川崎医科大学附属病院で18年11月にTSCPを受けた50代の女性は、16年5月ごろからひどい腰痛に悩まされていた。「腰から下が冷たくなって、しびれて力が入らない。座っても寝ていてもずっしりと重く、痛かった」と言う。岡山県内だけでなくテレビなどで紹介されていた大阪や東京のクリニックも訪ねたが、一向に改善しない。2年を経て、精神的にも追い詰められていたころ、中西医師と巡り会った。

 中西医師は腰部脊柱管狭窄症と腰椎すべり症と診断。手術の選択肢もあったが、女性は「高齢の家族の介護を担っていて、長く自宅を離れることはできないから」と、TSCPを選んだ。検査なども含めて2泊3日の入院で、治療自体は10分ほどで終わった。

 女性によると、治療中は「ビリビリッとして(カテーテルが)痛いところに当たっているなっていう感じ」で、「ピリッ」ときたら、今までしびれて重たかった脚が軽くなった気がしたという。「つきものがとれたじゃないけれど…。治療後すぐは腰の鈍痛というか違和感が残っていたが、1週間もしたらなくなった」と話した。痛みの再発はないと言う。

 中西医師によると、現在、研究会では脊柱管に入れることができるような、直径2ミリ程度の内視鏡を開発中。「脊椎の状態を高精度の画像で確認できれば、さまざまな疾患の治療に役立つ。これまで培ったTSCPの技術を痛みの緩和だけでなく、根治治療にも役立てたい」と話している。

 なかにし・かずお 倉敷青陵高、山口大医学部卒。岡山赤十字病院、岡山労災病院、岡山大医学部付属病院整形外科などを経て、2012年に川崎医科大脊椎・災害整形外科学講師、13年から同准教授、20年から川崎医療福祉大リハビリテーション学部理学療法学科教授を併任。日本整形外科学会整形外科専門医、同学会脊椎脊髄病専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年04月19日 更新)

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