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(7)肺がん治療 倉敷成人病センター外科部長 林達朗

林達朗氏

 肺がんは全てのがんの中で最も死亡者が多い部位であり、非小細胞肺がんの5年生存率が41%であることからも依然として厳しいがんの一つです。このような肺がんからご自身を守る方法はあるでしょうか?

 まず考えられるのは禁煙です。タバコにより男性で4・4倍、女性で2・8倍の肺がんのリスクがあり、10年間の禁煙によりリスクが半分になるといわれています。次に考えられるのは早期発見です。病期(ステージ)I期に限れば5年生存率は73%まで上昇することから、いかに早期に診断するかが鍵になります。

 肺がんによる症状は進行してから生じやすく、早期発見のためには肺がん検診を受診することが重要です。特に小さな肺がんの発見には胸部CT検査が有用です。昨年から続く新型コロナ肺炎の蔓延(まんえん)により検診や定期通院を控える傾向があり、早期発見と完治の機会を逃してしまう心配があります。

 肺がんは主に小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられ、小細胞肺がんは進行が早く、抗がん剤治療と放射線治療が中心となります。非小細胞肺がんは肺がんの約9割を占め、さらに腺がん、扁平(へんぺい)上皮がんなどに分類されます。全体の5~6割が腺がんになります。

 非小細胞肺がんの治療はがんの進行の程度を表す病期により異なります=図1。手術ではどれだけの肺を切除するかが重要になります。がんの治癒には大きく切除することが望ましいですが、大きく切除すれば手術後の呼吸機能が損なわれます。肺葉切除と呼ばれる切除方法が標準手術ですが、近年では2センチ以下でおとなしいタイプの腺がんであれば切除する肺を小さくする縮小手術(楔状切除や区域切除)も有効であることが証明され、患者さんに負担の少ない手術として積極的に行っています=図2。傷の大きさは手術後の痛みなどに影響します。胸腔鏡(きょうくうきょう)下手術は従来の開胸手術より傷が小さいため、当院ではほとんどの肺がん手術を胸腔鏡下手術で行っています。

 薬物療法も従来の抗がん剤に加え、特定の遺伝子変異がある肺がんに有効な分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新しい薬の登場により、肺がんの治療成績が向上しています。

 放射線治療は限局型の小細胞がんとIII期の非小細胞肺がんに対して薬物療法と併用して用いられます。また、がんの転移に対して症状を和らげる治療としても有効です。当院では4月より最新の放射線治療装置を導入しております。

 検診での早期発見から手術療法、薬物療法、放射線治療などの途切れのない肺がん治療を目標に「さらに患者さんに寄り添う やさしい医療」を提供してまいります。



 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 はやし・たつろう 岡山芳泉高校、川崎医科大学医学部卒、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科修了。米テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター、山口宇部医療センター、福山医療センターを経て2019年より現職。日本呼吸器外科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年05月17日 更新)

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