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既に岡山は「医療崩壊」の状態 埋まる重症者用病床、人手も不足

コロナの重症患者を治療する川崎医科大付属病院の医師と看護師=17日(同病院提供、画像の一部を加工しています)

 一向に収まらない新型コロナウイルスの流行「第4波」の影響で、岡山県内の医療提供体制が限界に近づいている。病床使用率(19日時点)は全体が84・5%で、重症者用が69・7%といずれも過去最悪の水準だ。いっときも目が離せない重症患者が急増する中、県内の主要な病院ではぎりぎりの人繰りでコロナと対峙(たいじ)。他の患者の入院や手術、救急搬送を断らざるを得ない状況に陥っている。

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 「無理に無理を重ねることになるが、何とか増床に協力したい」

 川崎医科大付属病院(倉敷市)の永井敦院長は、苦渋の判断を口にした。

 同病院のコロナ病床は全26床。6床ある重症用は4月末から常に4、5人が入院している状態が続くが、県からの要請を受け、近く重症用を最大で10床まで拡大する方針を固めた。

 感染100人超

 県内で猛威を振るうコロナの変異株。感染力が強く、幅広い年齢層の患者を重症化させるとされる。

 県によると、3月2日時点で重症用病床(43床)の使用は1床だったが、4月に入って増加。5月は1日当たりの感染者数が100人を超える日が続き、県は12日、重症用を含めたコロナ病床の増床を医療機関に要請した。

 岡山市立市民病院(岡山市)の重症用病床は4床。5月中旬には8人の重症患者がおり、軽症・中等症用を4床転用する事態を余儀なくされた。

 大型連休明けに重症用6床が全て埋まり、新たな入院要請を断っていた倉敷中央病院(倉敷市)。17日に重症用を計10床に増やしたが、翌日には8床が埋まった。他の病院では対処できない最も重篤なコロナ患者を受け入れる岡山大病院(岡山市)では今、重症用10床で7人が治療を受ける。

 県の要請で実現した増床は70床で、県内のコロナ病床は482床に。重症用は12床増の55床になった。

 ただ、19日時点で69・7%となっている重症者用病床使用率を、増床を加味して計算し直した場合でも54・5%。感染状況が最も深刻な「ステージ4(爆発的感染拡大)」の基準を超えており、「決して余裕のある数字ではない」と県新型コロナウイルス感染症対策室は危機感を示す。

 手術を延期

 「これ以上、コロナの重症用病床を増やすのであれば、他の医療提供を犠牲にせざるを得ない」。川崎医科大付属病院の永井院長が言う。

 同病院などによると、重症患者1人を担当するのは、複数の医師のほか、5人程度の看護師ら。病床を1床増やすには、これらの人員を新たに確保しなければならない。重症患者の多くが人工呼吸器などを装着するため、経験を積んだスタッフも必要となる。

 コロナ患者の対応に50人以上の人手を割く岡山市立市民病院では、救急搬送の受け入れに影響が及び、5月に入って少なくとも50~60件の搬送要請を断ったという。

 問題は人手だけではない。倉敷中央病院のように、高度な医療機器がそろう集中治療室(ICU)に重症用病床を設置した場合、食道がんや肺がんといった外科手術の術後管理に支障を来す。このため、同病院ではこれら一部の手術を延期。大けがを負った患者の救急搬送を断らざるを得ないケースも生じた。岡山大病院もICUにあるため、急を要さない手術を中心に1割程度を延期している。

 県内のある医療関係者は言う。「治療をしなければならない他の疾患の患者が“後回し”になっている。既に岡山は『医療崩壊』の状態だ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年05月21日 更新)

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