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慢性腎臓病 心血管疾患のリスク 医療の現状、専門家に聞く

柏原直樹・日本腎臓学会理事長(川崎医科大学副学長)

丸山啓輔・岡山済生会総合病院診療部長(腎臓病センター長)

 慢性腎臓病(CKD)を患う人は国内に約1330万人、成人の8人に1人とされる。重症化すれば腎臓が機能を失い、生命を維持するため透析治療などが必要となる。糖尿病や高血圧といった生活習慣病が主な原因のため、心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患を発症する危険性も高い。加えて新型コロナウイルス感染に対しては重症化のリスクも指摘されている。しかし、近年は治療薬の研究も進み、病気の進行を抑えたり、早い段階であれば腎臓機能が回復する可能性も出てきた。CKDをめぐる医療の現状を紹介する。

 腎臓は腰の上に二つあるこぶし大の臓器。血液をろ過して余分な水分や塩分、老廃物(尿毒素)を取り除き、尿として排せつする。血圧をコントロールしたり、体液を弱アルカリ性に保つなど体内の恒常性を維持。赤血球の生成を促したり、ビタミンDを活性化させることで骨の強度を保つ役割もある。

 岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町)の丸山啓輔診療部長(腎臓病センター長)によると、腎臓の働きが低下すると、尿が十分に作れなくなるため水分や塩分が過剰になってむくみが出たり血圧が上がる。腎機能(推算糸球体ろ過量=eGFR)が正常の30%を下回ると「腎不全」の状態に。この段階に入ると回復は難しくなり、食欲低下や吐き気、知覚異常などさまざまな尿毒症状が現れる。

 丸山診療部長は「腎不全が悪化すると、代替療法としての人工透析や腎臓移植が必要になる」と言う。

生活習慣病が原因

 患者にとって怖いのは腎不全だけではない。

 CKDの多くは糖尿病や高血圧などの生活習慣病が原因だ。日本透析医学会の資料で2019年に新たに透析治療を始めた人の原因疾患を見ると、糖尿病性腎症(41・6%)が最も多く、次いで高血圧による腎硬化症(16・4%)。この二つで6割近くを占めている。

 CKDは生活習慣病を介して心臓や脳の病気と深く関わっている。例えば、腎臓機能が落ちれば血圧が高くなる。高血圧は脳卒中や心筋梗塞を引き起こし、腎臓病自体をも悪化させる。高血圧と腎臓病は互いに関与し合い、悪循環を形成している。

 生活習慣病は自覚症状のないまま進行する。腎臓病も例外では無い。「気づいたときには手遅れ」というのはよくある話だ。早い段階から血圧や血糖値のコントロールができればCKDの悪循環は止められる。だからこそ定期的な健康診断が頼みの綱。「早期の発見、治療が大切だ」と丸山診療部長は強調する。

二人三脚の医療 

 CKDは一つの疾患を示すのではなく、糖尿病性腎症や腎硬化症など、治療をしなければ腎臓の機能を徐々に壊していく病気の総称で、合併症も視野に入れた概念だ。予防啓発のためのツールでもある。

 その診断は主に血液検査と尿検査で行われる。腎機能(eGFR)が60%未満、もしくはタンパク尿が出た状態が3カ月以上続いていると、治療が必要になってくる。腎機能が60%を下回ると脳卒中や心筋梗塞の発症が増えるとされ、死亡に至るケースもある。脳卒中は寝たきりの主要な原因にもなっている。

 CKDの考え方は、そうした危険な状態の進行度合いを誰にでも分かりやすいよう示してくれる。医師はその状態に応じた治療を施し、患者は生活習慣の改善を図るという「二人三脚の医療」に取り組む。

治る病気に

 日本腎臓学会の柏原直樹理事長(川崎医科大学副学長)は「今ではCKDの進行を止めたり、治すこともできるようになった」と説明する。近年、新たな治療法や薬の研究・開発が大きく進んだ。糖尿病性腎症は早い段階で適切な治療を行い生活習慣を改善すれば人工透析を回避できるし、慢性腎炎の多くを占める難病のIgA腎症は完治した例も出始めたという。

 貧血や高カリウム血症といった合併症にも使いやすい薬が開発されている。何より、糖尿病と高血圧の治療薬として使われている「SGLT2阻害薬」と「MR拮抗(きっこう)薬」が腎臓の機能低下を抑制する効果が確認されていて、腎臓治療への応用が期待されている。

 柏原理事長は「腎臓病の発症は高齢者が多いが、その時になって慌てるのではなく40代、50代から手を打っておく必要がある。腎臓病は誰もがなる可能性はある。自覚症状がないからといって病気を侮らないことだ」と話している。

メモ

 日本透析医学会の資料によると、国内の慢性透析患者数は年々増加し2019年末で約34万人。岡山県内は5336人。平均年齢は69歳。原疾患は糖尿性腎症が最も多く、次いで慢性糸球体腎炎、腎硬化症。19年には3万4642人の死亡が報告された。死因で最も多いのは「心不全」で22・7%。脳血管障害、心筋梗塞を加えた「心血管死」の割合は32・3%。

CKDとコロナ 透析患者 警戒が必要

 腎臓病の患者は免疫力が低下しやすく、感染症には警戒が必要だ。とりわけ透析患者の危機感は強い。丸山診療部長は「国内の新型コロナウイルスによる致死率は1.7%くらいだが、透析患者となると、判明しているだけでもその10倍、15%前後に跳ね上がる」と指摘する。

 気を使うのが透析室での感染対策だ。血液透析の患者は週に3回、1回に4~5時間の治療が必要。同じフロアで複数の患者が長時間滞在することになる。ベッドや周辺機材の消毒といった従来からの予防策に加え、「透析時でもマスクを着用してもらったり更衣室や待合室での消毒の強化、換気もするなど、できる対策は全て取っている」と丸山診療部長は言う。

 柏原理事長は「患者ができることは3密の回避、手洗い、マスク着用など基本対策の徹底だ。変異株はかなり感染力が強い。外出はできるだけ控えた方がいいだろう」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年06月07日 更新)

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