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(9)ここに来て良かった、そう言っていただけるブレストセンターを目指します 倉敷成人病センターブレストセンターセンター長・乳腺科部長 吉川和明

吉川和明氏

 当院では2020年8月からブレストセンターを開設しました。ブレストセンターの究極のミッションは、倉敷から乳がんで亡くなる方をなくすことと考えています。

 以前私は、多くはありませんが、緩和病棟で乳がんの末期の方々を看取(みと)る機会をいただいていました。最期までありがとうと、ご本人が、難しければご家族が、言ってくださることを心の糧に。信頼できるスタッフのおかげもあって、実際ほとんどの方にそう言っていただきました。けれどもそんな安堵(あんど)と裏腹に思いがありました。それは、今の今、乳がんで、最期を迎えることはなかったはず、という悔しい思いでした。理由は初診の遅れです。

 初診が遅れてしまう理由はいろいろですが、いちばん悔しいのは、しこりはあったけど、親御さんやご主人の介護で、お子さんやお孫さんの育児で、時間がなかったから…。大切な誰かのためにという思いが、結局それを不可能にしてしまうという、なんともやるせない逆説です。1年は8760時間あります。そのうちの数時間だけ受診ができていたら…。

 そんなことでもない限りは、大抵の乳がんは治ります。治るとはいえ、告知を受けた時の絶望感や、手術で味わうことになる乳房の喪失感は、並大抵ではないと思います。抗がん剤が必要な場合は脱毛や副作用の心配、再発の不安もあります。そんな時、ブレストセンターは最も力を発揮できる場所です、どうぞ利用してください。

 告知を受けたその日から、手術はもちろん放射線治療も全身療法もリハビリも、やがて安定してかかりつけ医との連携に至るまでそれぞれの専門のスタッフが、ご本人やご家族の立場に立って最適な方法を提案してまいります。

 乳房再建術は唯一未整備ですが、信頼できる医師や病院を紹介します。また、同じ状況を共有して分かち合える患者会の方々も大勢いらっしゃいます。がんになったからこそ、命の尊さを深く享受できる充実した人生を送っていただきたいものです。

 とはいっても実際の外来では乳がんの方は多くはありません。最近では生涯で乳がんになる方が9人にひとりと言われていますから、9人に8人は乳がんにはならないことになります。けれども多くの方が不安にかられて外来を受診されています。

 ブレストセンターでは、優れた診断装置をそろえて、乳腺診断専門医、鍛錬を積んだ女性技師、乳腺専門の病理医の目で、どこよりも正確な診断を心掛けています。がんでなかった方には安心と同時に、今後の最適な検診方法なども提案しています。

 ここまで目を通していただいてありがとうございます。もしかしたら今の今が受診のチャンスかもしれませんね。お待ちしています。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 よしかわ・かずあき 島根医科大学卒業。浜田医療センター乳腺科などを経て2020年7月より現職。日本医学放射線学会画像診断専門医、日本超音波医学会超音波専門医・指導医、日本乳癌学会専門医・指導医、日本乳癌検診学会評議員、マンモグラフィ読影AS判定医、超音波読影診断A判定医。名古屋医療センター客員研究員、島根県環境保健公社乳がん検診精度管理代表委員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年06月21日 更新)

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