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ドクターヘリ運航20年 川崎医科大病院、出動8千件

ドクターヘリ機内で治療を継続しながら患者を搬送する医療スタッフ(川崎医科大付属病院提供)

重症患者を運び、川崎医科大付属病院のヘリポートに到着したドクターヘリ

 医師を救急現場に運ぶドクターヘリの運航が、川崎医科大付属病院(倉敷市松島)で始まって20年を迎えた。2001年、全国に先駆けて飛び立ち、これまで岡山県内を中心に約8千件のフライトを重ね、約7900人の診療に当たった。交通事故や急病などによる重症患者の救命や後遺症の軽減に加え、地域の救急医療を支援し、医療格差を少なくする役割も担っている。

 2019年4月、新見市内の民家で、60代女性が激しい頭痛とおう吐に襲われた。駆け付けた救急隊員は脳卒中を疑いドクターヘリ出動を要請。約20分後に到着した同病院高度救命救急センターの医師は、直ちに血圧や痛みなどを抑える薬を投与した。搬送先の同病院では脳動脈瘤(りゅう)破裂によるくも膜下出血を認めて緊急手術。女性は3週間後、後遺症もなく退院した。

 同センターの椎野泰和部長は「ドクターヘリの最大のメリットは医師がいち早く現場に到着し治療を始められること」と強調する。

到着20分以内

 同病院は1981年からドクターヘリの実用化研究や試行を重ね、01年4月、本格運航を始めた。エリアは県内全域と近隣県の一部。多くの場合、出動要請から20分以内で現場到着する。出動要請が重なった場合は岡山県や岡山市の消防防災ヘリがカバーしている。

 救急車なら、通報から病院に搬送するまでに岡山市消防局管内で平均約30分、高梁や新見市の消防本部管内なら平均50分前後はかかる。椎野部長によると、これまでの研究から、ドクターヘリなら死亡は4割、後遺症も1割の減少が見込まれるという。

 年間400件前後出動し、20年度までの総出動件数は7980件、診察した患者は7903人に上る。患者は交通事故などによる多発外傷や心血管疾患、脳卒中などが多くを占める。出動の6割は患者の初期治療・搬送。残る4割は、容体が悪化した患者をより高度な医療施設に送る病院間搬送となっている。

病院間搬送

 出動要請が多いのは新見市や高梁市の消防本部、笠岡地区消防組合など。こうした地域は都市部と比べ救急病院は少ない。県内全域を短時間でカバーするドクターヘリの運航は、地域の医療格差を埋めている。

 加えて病院間搬送が4割を占める点を踏まえ、椎野部長は「地域で救急医療を頑張っている医療機関を支援する意味合いもある」と指摘する。新見市高尾の渡辺病院は市内に2施設しかない救急病院の一つ。遠藤彰院長は「ドクターヘリがあるからこそ、安心して救急患者を受け入れられる」と言う。ドクターヘリは、設備が整い専門医が常駐している高度な医療施設と、地域の病院とを直結する。

消防との連携

 本格運航から20年を経て、ドクターヘリの運用はほぼ全国に広がった。13年には中国5県が各県のドクターヘリを相互活用するための協定を結ぶなど、ネットワーク化も進んでいる。

 1980年からドクターヘリに関わり、国内導入に尽力した川崎医科大名誉教授の小濱啓次氏は「今の救急医療はドクターヘリなしでは考えられない」とし、より効率的な運用に向け、自治体が運用する消防防災ヘリコプターとのさらなる連携を訴える。

 消防本部からそれぞれ受ける出動要請を一本化している熊本方式などを示しながら、「ドクターヘリは傷病者発生現場へ、消防防災ヘリは患者の病院間搬送を主に受け持つなど、業務の在り方も含めて議論する時期に来ているのではないか」と話している。

 ドクターヘリ 機内に心電図モニター、超音波検査装置など初期治療に必要な医療機器や医薬品を搭載。操縦士と整備士、医師、看護師らが乗り込む。消防本部の要請を受けて出動し、現場近くのグラウンドや公園などに着陸して救急車と合流。機内でも治療を継続し患者を搬送する。運航はおおむね午前8時半から日没前まで。夜間や風雨が強い場合は出動できない。運営主体は都道府県から要請を受けたドクターヘリ基地病院の救命救急センター。年間約2億5千万円かかる運航経費は国と都道府県が負担する。45道府県が54機を運航している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年06月28日 更新)

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