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(10)外反母趾 倉敷成人病センター整形外科部長 大澤誠也

大澤誠也氏

 人類が二足歩行をするために何よりも重要な器官は「足」と言えるかもしれません。近年整形外科領域で足疾患の重要性が高まっていますが、その中で最も多くの女性を悩ます足疾患が外反母趾(がいはんぼし)になります。

 外反母趾は足の親指がMTP関節という部位で大きく「く」の字に曲がってしまうもので、それによりさまざまな障害をもたらします。原因としては遺伝や靴の影響などがいわれていますが明確なものはわかっていません。ただ女性に圧倒的に多く、実際に治療を行う患者さんの9割以上は女性となっており、加齢に比例して患者数は増えています。

 症状としては靴歩行時の母趾痛が主になります。ただ単純な母趾痛のみでなく、いつの間にか隣の趾の変形や脱臼を伴うような重症例もしばしば見られます=図1。痛みは少なくても、靴に関する悩みを訴える患者さんが大多数になります。荷重バランスの不均衡により足の裏などに大きな胼胝(タコ)が発生することも多く見られます。

 外反母趾の治療のためには、まず重症度を正しく診断する必要があります。まだ変形の少ない軽度のものであれば、靴の指導や運動療法、装具療法などの保存治療で痛みの改善が期待できます。変形の大きい中等度から重度の外反母趾では保存治療による改善はあまり期待できず、手術治療が勧められることが多くなります。

 外反母趾手術は決して出っ張った所を削り取るようなものではありません。中足骨という骨を切って3次元的に適切な角度に矯正して、さらに腱(けん)や靭帯(じんたい)などの軟部組織バランスを整えて正しいベクトルを構築することが手術の本質になります。

 近年では骨切り部のプレート固定=図2=により、単純な外反母趾のみであれば術後約1週間で装具を用いての歩行が可能となります。隣接する趾の脱臼などを伴う場合になると手術内容はもう少し複雑になり入院期間もやや長くなります。可能であれば重症化する前に適切な診断を受けて、どのような治療法を選択するかを足の専門医と一緒に考えて決めるのがいいでしょう。

 禅において脚下照顧(きゃっかしょうこ)という言葉があります。言葉通りの意味は履物をそろえましょう、ということですが、広義では自分の足元をしっかり見つめて足元のことを地道にやっていく、そうすれば結果は自然についてくる、という意味で使われています。この言葉を大切にするとともに、時には足の大切さを意識しながら足を見つめ直してみてはいかがでしょうか。



 倉敷成人病センター(086―422―2111)。連載は今回で終わりです。

 おおざわ・せいや 愛光高校、岡山大学医学部卒。2017年より倉敷成人病センター勤務。一般整形外科診療に加え外反母趾専門外来も行っている。医学博士、日本専門医機構認定整形外科専門医、日本足の外科学会評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年07月05日 更新)

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