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(3)脳卒中の予防 岡山旭東病院脳卒中センター長脳神経外科主任医長 河田幸波

河田幸波氏

 卒中というのは突然に何らかの症状を生じることです。脳卒中で最も多いのは脳梗塞で、次いで脳出血、クモ膜下出血と続きます。このうち脳梗塞と脳出血は動脈硬化を基盤とすることが多く、脳梗塞と脳出血を交互に繰り返す方もあります。

 動脈壁に脂質やカルシウムなどが沈着して分厚くなると動脈の内腔(ないくう)は狭くなり、その動脈は詰まりやすくなります。そして動脈の内壁は凸凹になってくるため血小板が活性化されて血液は固まりやすくなります。また動脈の内壁に亀裂が入り、動脈壁内に沈着した脂質などが血液の中に出てくれば、瞬く間に大量の血栓を作ります=図。

 しかも動脈はただの管ではなく、生きた臓器であり、さまざまな仕事をしています。その動脈が「しなやかさ」を失うために血圧を安定させることが難しくなり、突然破れて出血することがあります。

 その脂質の源は、おいしく食べた物の持つエネルギーのうち、使い切れなかったものです。元は果物、穀類、乳製品、肉類など何であれ、余れば体内でインスリンなどの作用により脂質に変換されて、内臓や動脈の壁、肝臓などに「飢饉(ききん)に備えて」蓄えられます。この蓄えは血糖値が高くなるほど増えます。よって消化吸収のスピードも重要です。柔らかくて吸収が早い形で摂取すれば血糖値が急上昇し、どんどん蓄えられます。しっかり噛(か)まないといけないような形でゆっくり摂取すれば血糖値は緩やかに上昇しますのでさほど蓄えられません。

 それでもおいしい物を食べたいから運動する! と言う方も多いですが、のんびり散歩では1時間歩いても大判焼き半分のエネルギーも消費できません。糖尿病の薬を飲んでいるから大丈夫! と言う方もありますが、インスリン分泌が促進されて動脈硬化が進むこともあります。遺伝だから仕方ないと言う方もありますが、明治時代に海外に移住した日本人は、海外の人と同じような生活習慣病になったと言います。食事がいかに大切か気付かされます。

 脳梗塞や脳出血の原因として動脈硬化以外に、血管奇形、腫瘍、不整脈、心臓の形の問題などがあります。脳梗塞や脳出血の画像から原因を推理し、さらに検査を行います。

 クモ膜下出血の原因のほとんどは動脈瘤(りゅう)か血管奇形です。これらは脳ドックで発症前に発見できます。

 また残念ながら脳卒中になってしまったときは、できるだけ早く脳卒中の診断と治療ができる病院に行くことが大切です。

 最後に、最近はカテーテルを使って脳に飛んだ血栓を回収することも不可能ではない時代になりましたが、腎臓が悪いと、造影剤を使用するカテーテル治療は難しくなります。タンパク質、糖、塩は腎臓に負担がかかります。タンパク質は豆類、卵類、乳製品、肉、魚などに含まれ、過剰に摂取しやすいので注意しましょう。



 岡山旭東病院(086―276―3231)

 かわだ・さなみ 岡山大学卒。2005年より岡山旭東病院勤務。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年08月18日 更新)

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