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(5)口から食べる喜びをいつまでも 倉敷スイートホスピタルリハビリテーションセンター副主任 山本篤史(言語聴覚士)

山本篤史氏

 脳卒中やその他のさまざまな疾患が原因となって口の中の物をうまく飲み込めない状態を嚥下(えんげ)障害と言いますが、人にとって口から食物をとるということは生命維持や健康維持だけでなく、生きる楽しみの一つとなっています。

 嚥下障害はリハビリテーションによって改善や維持も期待できるものであり、今回は、食べる(摂食)ということについて着目してお話しします。また、そのために重要な飲み込む(嚥下)機能を知るための検査やそれを維持するために必要な体操を紹介したいと思います。

 ■摂食・嚥下のメカニズム

 食べる際、食物を見て認識し、食物を口に取り込み、食べやすい形状に噛(か)み砕き、喉の奥へ送って飲み込みます。このメカニズムを「摂食嚥下」といいます。

 摂食嚥下は「先行期」から「食道期」の5期に分かれています。

 (1)先行期(認知期) 視覚や嗅覚を用いて食物を認識し、食欲を促し唾液を分泌します。

 (2)準備期(咀嚼(そしゃく)期) 食物を口に取り込み、食物を噛み砕き、唾液と混ぜて飲み込みやすい形状(食塊)にします。

 (3)口腔(こうくう)期 形成された食塊が舌の運動により喉の奥へと送られます。

 (4)咽頭期 喉頭が挙上することにより、気管への入り口を閉鎖し食道へ食塊を運びます(嚥下反射)。

 (5)食道期 食塊が食道へ入り、食道の蠕動(ぜんどう)運動によって胃へと運ばれます。

 ■嚥下造影検査(VF検査)

 食物の流れは外から視覚的に見ることはできません。それを知るために、バリウムの入った食材を摂取し、レントゲンの透視装置を用いて飲み込みの様子を観察する嚥下造影検査(VF検査)があります。病気や加齢によって、この摂食嚥下機能が低下し、気管から肺に食物が入ると誤嚥性肺炎を発症してしまいます。摂食嚥下のメカニズムを知り、飲み込みの状態を評価し、安全に摂取できる食事形態や食事環境(姿勢・向き)を整えることにより誤嚥性肺炎を予防することができます。

 ■嚥下体操

 嚥下体操は食事前に行うと効果的です。

 パタカラ体操 「パ」「タ」「カ」「ラ」を各5回ずつ発音し、最後に「パタカラ」と連続して5回発音します。口を大きく動かしながら行うことで、食べるために必要な口や舌の筋肉を鍛え、唾液の分泌を促します。

 おでこ体操 おでこに手を当て、おへそをのぞき込むように力を加えます。ゆっくり5秒を数えながら5~10回を目安に実施してください。この体操で喉の筋力を鍛えることにより、誤嚥予防につながります。

 「いつまでも口から食べる」という喜びは、人生においてとても重要だと思います。一人ひとりの口から食べたいという思いを尊重し、その人らしく生き生きとした生活が送れるよう、飲み込む力を維持していきましょう。



 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 やまもと・あつし 関西高校、吉備国際大学、東海医療科学専門学校卒業(言語聴覚士免許取得)。倉敷廣済病院を経て2012年から倉敷スイートホスピタル勤務。20年から現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年08月18日 更新)

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