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(4)変形性膝関節症に対する治療法~自分の関節を温存する膝周囲骨切り術 岡山ろうさい病院整形外科副部長(人工関節センター長) 横山裕介

横山裕介氏

 長寿による超高齢化社会を迎えたわが国において、健康寿命を保つことが重視されています。健康寿命とは元気に自立して過ごせる期間のことです。健康寿命が損なわれると、生活の質が落ちて、本人にとって不利になるだけでなく、家族の負担も大きくなります。

 要介護や要支援の原因には関節疾患の割合が高く、関節疾患の中でも変形性膝関節症は頻度が高い疾患です。また、変形性膝関節症は働き盛りの壮年から中年期でも増えていますが、耐用性の問題から人工膝関節置換術の適応とならず、膝痛のため仕事や活動の制限を余儀なくされている方もいます。健康寿命を伸ばし、あらゆる年代の人が社会で活躍し、人生を楽しむためにも変形性膝関節症による膝の痛みを改善することはとても大切です。

 ■変形性膝関節症

 膝の関節が変形し、軟骨がすり減って痛みが出てきます。日本人は、膝の内側で体重を支えるO脚の方が多く、内側に痛みを感じる方が多いのが特徴です。しかし、症状が進行し、その他の部位の軟骨も変性してくると、膝全体に痛みを感じるようになります。

 ■治療法

 まずは生活習慣や運動で膝の負担を減らす保存療法から始めます。その他、鎮痛剤などの薬物療法や関節内注射を行っても症状が改善せず、日常生活や仕事に支障が出るような場合は手術を検討します。手術については、変形が強い場合には人工膝関節置換術を行いますが、変形が比較的軽度である場合は、自分の関節を温存する膝周囲骨切り術も選択肢に入ります。

 ■膝周囲骨切り術

 文字通り膝周囲の骨(大腿骨=ふとももの骨、脛骨(けいこつ)=すねの骨)を切って、膝の変形を矯正する手術です。矯正した骨は人工骨やプレートで固定します。

 例えばO脚の場合、どうしても膝の内側に体重が集中してしまい、膝の内側の軟骨がすり減って痛みが出てきます。このような患者さんの中で、膝の外側の軟骨がきれいに残っている場合は、すねの骨を切り、少しX脚気味に角度を変えることで、荷重の軸が少し外側に移動し、正常な軟骨が残っている部分で体重を支えることができます。これにより膝痛が改善します。

 反対にX脚の場合は、外側に負担がかかっているのを矯正します。

 膝周囲骨切り術は以前からあった手術法ですが、近年は固定性に優れる人工骨、プレートが開発され、リハビリ期間も短縮でき、選択されることが多くなっています。

 膝周囲骨切り術では自分の膝関節が残るので、手術後、日常生活に制限はなく、スポーツ活動や仕事復帰も可能です。日本人の健康寿命の延長と生活スタイルの変化に伴い、現在非常に注目されていて、「(人工のものではなく)自分の膝を残したい」「まだまだスポーツや旅行を楽しみたい」「農業などの仕事を続けたい」という人に適した手術療法です。興味のある方、膝の痛みで思うように運動できなくて困っている方は、いつでもご相談ください。



 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 よこやま・ゆうすけ 岡山芳泉高校、岡山大学医学部卒、同大学大学院医歯薬学総合研究科修了。医学博士。2020年より岡山ろうさい病院勤務。ドイツミュンスター大学に短期留学。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定リウマチ医。日本整形外科学会認定スポーツ医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年09月06日 更新)

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