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第5回「高血圧と脂質異常症」

柏原直樹教授

高尾俊弘教授

 高血圧と脂質異常症、糖尿病は生活習慣病の“悪者3兄弟”だ。いずれも動脈硬化を進める危険因子で、例えそれぞれの程度が小さくても、この三つが集うと互いに関与し合って悪循環を形成する。心筋梗塞や狭心症といった心疾患や脳卒中を招き、人の生命を奪ったり寝たきり生活を余儀なくさせたりする。川崎学園特別講義の第5回は「高血圧と脂質異常症」をテーマに、川崎医科大学腎臓・高血圧内科学の柏原直樹教授、同大学健康管理学の高尾俊弘教授(附属病院健康診断センター長)に、そのメカニズムや予防法などを教えてもらう。

「高血圧」 川崎医科大学腎臓・高血圧内科学 柏原直樹教授

 高血圧は生活習慣病の中で最も多く、推計で4300万人います。国民の約3分の1です。そのうち適切にコントロールできているのはわずか1200万人で、7割を超える3100万人が管理不良です。自らの高血圧を認識していない人1400万人▽認識しているが未治療が450万人▽薬物治療を受けているが管理不良が1250万人となっています。

 高血圧は心筋梗塞や狭心症、脳卒中、腎臓病の原因であり、重症化を招く強力な要因です。逆に言えば、高血圧を抑制すれば、これらの深刻な病気にはなりにくくなります。健康管理における血圧の重要性は非常に大きいのです。

 ■塩分が最大の敵

 高血圧の原因は加齢や肥満、ストレス、遺伝的な素因などさまざまありますが、最大の要因は「塩」です。血液などの体液は常に一定の濃度になるよう保たれています。塩分をたくさんとると、その濃度を薄めるために水分が必要となり血液量が増えます。体内循環にはより大きな力が必要となり血圧は上昇します。腎臓は過剰になった塩分と水分を排泄するため、圧力をかけて血液をろ過し、尿を作ります。このため血圧はさらに上がります。

 では、どのくらいの塩分量が適切なのか。これは難しい問題ですが、学会では1日6グラム未満を推奨しています。ところが日本人の平均摂取量は約10グラム(2019年国民健康・栄養調査)です。塩分の摂取量を減らせば血圧は下がります。

 ■高まる死亡リスク

 血圧の正常値は120/80mmHg未満です。これを超えて血圧が高くなればなるほど、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎臓病などの罹患(りかん)リスクおよび死亡リスクは高まります。

 病院などで測った診察室血圧が140/90mmHg以上、自宅で測った家庭血圧が135/85mmHg以上、この状態が続く場合に高血圧と診断し、治療を開始します。

 高血圧による国内の脳心血管病の死亡者は年間10万人と推定されます。国は国民の収縮期血圧(上の血圧)の平均値を4mmHg低下させることを目標としています。これにより脳卒中死亡数が年間1万人、心筋梗塞など冠動脈疾患死亡数が年間5千人減少すると推計されます。

 ■減塩は食育で

 治療の柱は食事や運動といった生活習慣の改善です。塩分を控え、野菜や果物などをバランスよく食べ、適正体重を維持して適度な運動をする。それでも血圧が下がらない場合、薬物治療に入ります。

 日本人の食事は塩分が多くなりがちです。とりわけ外食や加工食品には気を付けなければなりません。

 「減塩」は「健康食」です。幼いころから「食育」の一環として素材本来の薄味に親しんでいれば、高齢になっても健康な生活が維持できます。

 なお、高血圧の5~10%に2次性高血圧が隠れています。2次性は腎臓など他の病気が原因で、それを治せば高血圧は改善します。若いうちから血圧が高い、家族歴がない、いろんな薬を使っても血圧が下がらない人は専門医への受診をお勧めします。

「脂質異常症」 川崎医科大学健康管理学 高尾俊弘教授(附属病院健康診断センター長)

 脂質異常症は血液中のコレステロールや中性脂肪などの検査値が基準から外れた状態のことです。国内には4千万人以上と言われます。血管の壁が脂質の沈着などで厚くなったり硬くなったりする動脈硬化を進行させ、脳卒中や心臓病を招きます。症状が出現したときには死の危険が迫っていることが多く、「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれています。

 ■本来は大切な物質

 コレステロールは人間の体に存在する脂質の一つで、細胞膜や、体内のさまざまな機能を調節するホルモン、消化吸収に必要な胆汁酸などの材料です。大きく分けてLDLとHDLがあります。LDLコレステロールは血流に乗って肝臓から全身にコレステロールを届けます。LDLコレステロールは多すぎると血管内にコレステロールがたまるので「悪玉」、HDLコレステロールは余ったコレステロールを回収するので「善玉」と呼ばれています。

 中性脂肪は肉や魚・食用油など食品中の脂質や、体脂肪の大部分を占める物質で、人や動物にとってのエネルギー源です。

 ■怖いプラーク

 コレステロール、中性脂肪ともに生存に欠かせない重要な物質ですが、取り過ぎると肥満を招き、動脈硬化を進行させます。その速度はゆっくりですが、確実に進んでいきます。

 動脈硬化を起こした血管では脂質が血管壁の内側に入り込み、プラークと呼ばれる膨らみができます。それだけでも血管は狭くなりますが、プラークは破れやすく、いったん破れると血小板が集まってきて、血管の中にかさぶたができて詰まってしまう場合があります。これが心臓の冠動脈で起きれば狭心症や心筋梗塞になり、脳の動脈で起これば脳梗塞となります。

 日本人の死因のトップはがんですが、2位は心疾患、4位が脳血管疾患です。

 ■軽視は危険

 脂質異常症の予防は、まずは体重の適正化、食事療法、運動療法、禁煙といった生活習慣改善です。

 LDLコレステロール値が高くなる原因としては、肉の脂身やラード、バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸のとりすぎが挙げられます。鶏卵の黄身や魚卵はコレステロールを多く含むので控えめにしましょう。

 中性脂肪高値の要因にはエネルギー量の過剰摂取、特に甘い物、油物、アルコールのとりすぎが挙げられます。糖分の多いソフトドリンクを飲む習慣のある人も高い傾向があります。

 食事・運動などの生活習慣の改善を行っても効果が見られない場合は薬物療法が必要となります。

 男性は加齢によってコレステロール値はほとんど変化しませんが、女性は閉経後に急上昇します。50歳を過ぎたころから脂質の値に注意する必要があります。

 健診でコレステロールや中性脂肪の値が高くても「たいしたことない」と軽視する傾向が、医療従事者も含めてあります。とても危険です。結果を真剣に受け止め、生活習慣改善に踏み切ってください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年10月04日 更新)

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