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(2)【2021年 脊椎・脊髄への旅】―脊椎・脊髄を内側から覗いてみた― 国立病院機構岡山医療センター整形外科医長 竹内一裕

竹内一裕氏

 子供のころに見た映画で、強烈な印象が残っているものがあります。それは「ミクロの決死圏」(原題・Fantastic Voyage)です。1966年の作品とのことですので、オリジナル版を見たわけではありません。あらましは、このようなものです。

 <要人の命を救うため、潜水艦ごとミクロ化された医師たちが注射器で血管内に送り込まれ、脳内部の治療に挑む>

 その映像は当時の私にとって鮮烈で、体の中を内から見ると、どうなっているのか? そのようなことができたら、病気を直接見て、退治できるのでは? と思ったものでした。

 まだまだ、われわれ自身が小さくなって体の中に入っていくわけにはいきませんが、器官の内側を直接見ることは、かなり現実化されてきました。現に、消化器領域では、カプセル型カメラによる消化管内側の検索が始まっています。

 私が専門とする脊椎外科領域でも、内視鏡カメラによって、局所に近接し、細部の情報をリアルタイムで手にすることができるようになりました。

 当科でも、腰椎椎間板ヘルニアに対するヘルニア摘出術をはじめとし、患者さまへの負担を軽減させる低侵襲手術(負担の少ない手術)の一つとして、内視鏡視下手術を推し進めてきました。

 内視鏡手術メリットは、目に見える効果としては、手術創の小さいことがあります。内視鏡を用いることで従来の半分程度(約2センチ)に、今では約8ミリの傷での対応もできることがあります。このことは、美容的に有利であることはもちろんです。加えて、内視鏡視下での周辺骨・筋肉組織のダメージの軽減効果は、術後の疼痛(とうつう)の減少や、速やかなリハビリ開始による日常生活への早期復帰として実感していただけます。

 現在、椎間板ヘルニア摘出や除圧(神経圧迫を除くこと)は、頚椎(けいつい)~胸椎~腰椎と全脊柱において内視鏡での対応が可能となってきました。また、固定術(不安定な脊椎の固定)でも、内視鏡の応用が可能な場合があります。もちろん全ての症例での内視鏡対応ができるわけではありません。選択肢の一つとして、ご提案できたらと思っております。

 われわれを取り巻く機器の開発、技術の革新には目を見張るものがあります。内視鏡併用以外の手術においても、低侵襲アプローチの発展には産・学の進歩に負うところが大きくなっています。われわれは、日夜、低侵襲手術領域でもオピニオンリーダーとなるべく情報収集および技術の獲得に精進しております。

 先日、一般人の宇宙旅行が話題となりました。一般人といっても、まだまだ庶民には程遠いお話かと思っております。ただ、脊椎手術におけるミクロの旅は、顕微鏡に始まり内視鏡へと進み、われわれの手にできるところとなりました。本稿が、患者さまの治療における文字通り“Fantastic Voyage”となれば幸いです。一度、当方にもご相談ください。

     ◇

 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)

 たけうち・かずひろ 岡山大学医学部卒業。同大学大学院に入り、その間、米国ジョンズ・ホプキンス大学に留学。大学院修了後、神野整形外科病院、岡山大学医学部整形外科学教室を経て2002年に国立病院機構岡山医療センター。09年から現職。日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄医、日本脊椎脊髄病学会指導医、脊椎脊髄外科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年10月04日 更新)

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