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(3)男性不妊治療―手術で改善が期待できる疾患 精索静脈瘤― 国立病院機構岡山医療センター泌尿器科医長 市川孝治

顕微鏡下精索静脈瘤手術

市川孝治氏

 一般的に、特に病気のない健康な男女が妊娠を希望し、避妊をせず夫婦生活を営んだにもかかわらず、1年を過ぎても妊娠しない場合を不妊と呼んでいます。最近の調査では、5・5組に1組のカップルが検査や治療を受けています。

 不妊症の原因として、男性のみ、女性のみ、両方に問題がある場合が考えられますが、男性側の要因は約5割と言われています。

 男性不妊症の原因は、造精機能障害、性機能障害、精路通過障害に分かれます。このうち造精機能障害の6割は特発性と分類され、今なお有効な治療法がありません。しかし、3割を占める精索静脈瘤は、外科的治療によって精液所見が回復する可能性があります。

 ■精索静脈瘤

 本疾患は、精巣から心臓へ帰る血液が内精静脈と呼ばれる静脈内で逆流することで発症します。静脈には血液が逆流しないように弁構造が存在しています。精索静脈瘤では、この弁の機能が低下しているために血液の逆流が起こります。思春期頃から見られ、20~30歳代で最も治療されます=グラフ

 思春期で発見された場合の主訴は、陰嚢(いんのう)部の疼痛(とうつう)やしこりで、20~30歳代の主訴は不妊です。放置しても生命に危険が及ぶことはありませんが、精索静脈瘤によって精子の質が低下することが分かっています。

 詳しくは、精巣内環境変化として、(1)精巣内温度が上昇する(2)酸化ストレスが増加する(3)慢性的に低酸素状態となる(4)有害物質の蓄積がおこる(5)精子DNAの断片化が増加する(6)精子アポトーシスが亢進(こうしん)する、などが報告されています。

 ■顕微鏡下精索静脈瘤手術写真

 精索静脈瘤は手術によって、疼痛・しこりの改善や、精液所見の回復が期待できます。手術方法は、開腹手術、腹腔鏡下手術、顕微鏡下手術がありますが、これまでの治療成績から顕微鏡下手術が優れていると言えます。

 当院では2015年より顕微鏡下手術を本格的に導入し、20年からはオーブアイ(Olympus)を用いて、これまで以上に繊細に手術を行っています。オーブアイは4K・3Dの高精細デジタル画像で、組織や血管の微細な構造を高精細かつ立体的に観察でき、緻密な手術が行えます。

 55型の大型モニターを見ながら手術が行えるため、術者の疲労軽減だけでなく、チーム全員で同じ映像を共有でき手術の効率化が得られます。麻酔を行ったのち、鼠径(そけい)部を2~3センチ切開して行われます。手術時間は60~90分程度ですが、疼痛が主訴の方には除神経も追加するため、これより長くなります。当院では、術後翌日に創を確認して退院としています。

 ■おわりに

 近年の少子高齢化社会への対策として、生殖年齢層への職場環境の整備や、不妊治療への助成は欠かせません。22年4月から不妊治療の公的保険適応が拡大される予定ですが、少しでも良好な精子がつくられるよう協力していきたいと思っています。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)

 いちかわ・たかはる 岡山大学卒業、独ギーセン大学留学、岡山大学大学院医学研究科修了。2015年より現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本アンドロロジー学会評議員、日本泌尿器内視鏡学会評議員・泌尿器腹腔鏡技術認定医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年10月18日 更新)

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