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乳がん患者のQOL向上 「松岡良明賞」 土井原教授(岡山大病院)に聞く

土井原博義氏

 がん撲滅に功績のあった個人・団体をたたえる山陽新聞社会事業団の第26回「松岡良明賞」を受賞した岡山大病院(岡山市北区鹿田町)乳腺・内分泌外科教授の土井原博義氏。35年にわたって乳がんの治療や研究、検診率アップに向けた啓発に力を注いできた。いま取り組んでいる治療や今後の展望を聞いた。

 ―日本人女性が罹患(りかん)するがんで最多なのが乳がんだ。

 高脂肪の食生活や喫煙、飲酒のほか、妊娠、授乳経験がないことも要因で、患者数は増えている。自己検診ができ、医療機関での検査も比較的簡単だが、働き盛りの女性が治癒が望めないほど進行した状態で受診するケースも少なくない。

 ―2008年に「乳がん治療・再建センター」を立ち上げた。

 患者が増加し、乳腺外科医が診断から手術後のリハビリ、精神的なケアまで全てに対応するには限界があると感じていた。センターでは乳房再建を担う形成外科医や精神科医、作業療法士、専門の薬剤師、下着に関するカウンセラーらでチーム医療を実践。“先輩患者”が助言するピアサポートの仕組みもつくり、患者のQOL(生活の質)向上につなげている。

 ―治療費の一部に公的医療保険が適用される「先進医療」のラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法を実施している。

 1・5センチより小さい腫瘍に特殊な針を刺し、約3センチの範囲を焼く治療法。時間は10分ほどで、翌日には退院ができる。乳腺を切除しないため、乳房の形に左右差がほとんど出ない。これまで約50人に行い、焼いた部分の再発や熱傷による合併症はない。全国の症例は16施設で350例以上。数年後には保険適用され、標準治療になると期待している。

 ―NPO法人・瀬戸内乳腺事業包括的支援機構を設立し、若手医師の教育に力を入れている。

 全国的に乳腺専門医は不足しており、大都市圏に比べ、中四国は特に少ない。機構ではマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)の読影や針生検(組織検査)の手技指導などに取り組んでおり、20人以上の専門医を育成した。近年、女性医師は増えているが、育児などで専門医の資格を取る余裕がないケースもある。課題を共有して話し合ったり、先輩からアドバイスを受けたりする体制も整えた。

 ―乳がんの知識を広めるため、県内の医療関係者や患者会などでつくる「ピンクリボン岡山」を率いている。

 新型コロナウイルス禍による検診控えから、乳がんの精密検査や発見の件数が減っており、危惧している。1、2年に一度は検診を受けてほしい。ピンクリボンとしても、早期発見の大切さを伝えることで、受診率の向上につなげていきたい。

 どいはら・ひろよし 1982年岡山大医学部卒。国立病院四国がんセンター勤務、岡山大大学院医歯薬学総合研究科腫瘍・胸部外科准教授などを経て、2010年から現職。日本乳癌(がん)学会指導医、専門医。岡山市在住。65歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年10月25日 更新)

タグ: がん岡山大学病院

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