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(10)医療と介護の究極の役割 倉敷スイートホスピタル理事長 江澤和彦

江澤和彦理事長

 新型コロナウイルス感染症の流行が始まって2年近くとなります。患者さんの多くが感染初期からウイルスによる肺炎を来たし、血栓ができやすい状態になります。この点がインフルエンザとの大きな違いです。

 当院の200人超の入院患者さまにおいても、約8割の方に胸部CT検査で肺に病変を認め、血液の酸素濃度が正常な方でも約7割の方に同様の所見を認めています。

 現在では、ワクチン接種が進み、標準的な薬物療法も確立しました。流行初期と比べて治療成績は飛躍的に改善し、さらに、発症初期のウイルス増殖を抑える内服治療薬の登場も期待されるようになり、状況は様変わりしてきました。

 一方で、新型コロナウイルス感染症の流行は国家的大規模災害の様相を呈しています。全国各地で死亡者、重症者、感染者の人数が連日報道される中、全国の累計感染者数は170万人に達し、大変つらいことですが、1万8千人を超える方が亡くなられました。

 お亡くなりになられたお一人お一人には何事にも代えがたい尊い人生があり、ご家族や友人との絆があり、やむを得ない無念の気持ちで天へ召されており、心痛察する思いです。しかも、感染へのリスクからご臨終に立ち会えず、ご家族が最期の別れさえできない悲惨な現実も繰り返されました。

 人生の最期まで尊厳を保障することが、医療と介護の担う究極の役割です。誰もが住み慣れた地域で最期まで、自分らしく生き生きと暮らしたいと願われています。

 ところが、ある日突然、脳卒中を発症し、不幸にして意識障害や要介護状態となることがあります。病を来す前は、仕事に精を出していたり、ご家族との団欒(だんらん)を楽しまれていたりしていたはずです。

 医療や介護の現場を担う私たちは、ご本人の生きがいや人生で大切にされていたことに想いをはせることを大切にしています。日々、喜びも悲しみも共感し、治療やケアをさせていただくことがとてもありがたく、お元気になられた方の笑顔や姿は、医療や介護の現場職員にとって最大の喜びとなります。幸せな笑顔から頂く「ありがとう」のお言葉は、私たちにとっても最高の幸せなのです。

 たとえ障害や要介護を来しても、自分のしたい活動や社会参加していくことを目指し、誰もが地域で共生できる社会の実現に国を挙げて取り組んでいます。生活の不活発や寝たきりは、人のあらゆる機能を低下させる一方で、廃用によって失われた機能は、時を経ても十分に回復しますので、周囲に依存することなく、自ら活動することは極めて重要です。

 全国各地で住民が主体的に集まって体操や趣味活動を行う場が10万カ所を超えて存在します。その場に、医療や介護の専門職が参加して関わることによって、住民の皆さまの健康づくりや介護予防、専門知識や情報の収集に役立つことが期待されています。

 私たちも地域に貢献できることがこの上ない喜びであり、努力を惜しまない覚悟です。誰もが一度きりの大切な人生を送られており、そこにしっかりと寄り添い、ご本人の意思を尊重し、人としての尊厳を保障し、幸せな人生となることを願ってやみません。



 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)。連載は今回で終わりです。

 えざわ・かずひこ 日本医科大学卒、岡山大学大学院医学研究科修了。同大学病院、倉敷広済病院を経て、1996年に医療法人「和香会」(倉敷市)、医療法人「博愛会」(山口県宇部市)理事長。2002年から社会福祉法人「優和会」(同)理事長兼務。18年から日本医師会常任理事。日本リウマチ学会リウマチ指導医・専門医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年11月04日 更新)

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