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(4)超高齢化社会における耳鼻咽喉科診療―認知症予防としての聴力サポートと増加する頭頸部がん― 国立病院機構岡山医療センター耳鼻咽喉科医長 丸中秀格

丸中秀格氏

 耳鼻咽喉科は音を聞く「耳」、匂いを嗅(か)ぐ「鼻」、味を感じる「口」、飲み込みや発声にかかわる「のど」をみる科です。いずれも日常生活を過ごすうえで大切な機能です。

 近年、日本は超高齢化社会に突入し高齢者の増加とともに難聴(聞こえにくい状態)で困っている方が増えています。日本耳鼻咽喉科学会のホームページによると、65~74歳では3人に1人、75歳以上では約半数が難聴に悩んでいるといわれています。

 難聴になると、大切な音が聞こえず危険察知できなかったり、家族・友人とのコミュニケーションが困難となるため、自信を喪失したり、認知症発症のリスクが大きくなったりします。

 社会的に孤立し、うつ状態に陥ることもあり、認知症予防も含めて早期に補聴器で聞こえをサポートする必要があります。補聴器をつけることを恥ずかしがる方もおられますが、聞こえないまま生活するより、それこそ目が見えにくくなったら眼鏡をするのと同様に、聞こえが悪くなったら補聴器をつけた方がよいでしょう。ご家族で難聴に困っている方がおられたら耳鼻咽喉科に相談ください。

 また、耳鼻咽喉科が取り扱う「頭頸部(とうけいぶ)がん」も最近増加傾向にあります=グラフ。頭頸部がんとは、あまり聞きなれないですが、脳と目を除いた首から上のすべての領域をいい、発生する部位によって鼻・副鼻腔(ふくびくう)がん、口腔(こうくう)がん(舌がんも含む)、喉頭がん、咽頭がん、唾液腺がん、甲状腺がん、頸部食道がんなど=図=があります。日本国内では年間に1万5千人~2万人が頭頸部がんになっており、その数は全がん総数の5%と言われています。

 頭頸部には「息をする」「飲み込む」「話す」「味わう」など日常生活に大切な機能が集中している場所であり、頭頸部がんではがんを治すための根治性とQOLとのバランスを保った治療が必要です。手術で切り取る方法や放射線治療・抗がん剤治療を組み合わせて治療内容を決定していきます。

 最近では2018年に本庶先生がノーベル賞をとるきっかけとなったがん免疫療法(当院でも実施)をはじめ、日本発である陽子線治療(津山中央病院と連携)、米国立癌研究所の小林先生が開発した光免疫療法(岡山大学病院と連携)などの新しい治療も出てきており、すべてのがんが治療対象ではないですが、それらの治療も含めて患者さんに納得いただける治療を相談して選択していきます。

 このように、私たちは、高齢化社会において食べる・聞く・しゃべる・飲み込むといった生活に必須の機能の温存を目指しつつ、患者さんに向き合った診療を行っていきます。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)

 まるなか・ひでのり 兵庫県立神戸高校、岡山大学医学部卒、岡山大学大学院医学研究科修了。2021年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医、補聴器相談医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年11月04日 更新)

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