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(1)尿漏れが気になったら、泌尿器科検診を! 岡山中央病院泌尿器科医師 大岩裕子

大岩裕子氏

 尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことで、一般的には「尿漏れ」と言われています。多くの場合、膀胱(ぼうこう)排尿筋や骨盤底筋の衰え、つまり加齢による排尿機能の衰えが背景にあり、中高年以降、男性、女性ともに悩まされる症状です。

 人生100年時代の今、QOL(生活の質)の高い老後を過ごすために、排尿機能は忘れてはならない機能であり、「尿失禁」はそのことに気づかせてくれる身体からのサインです。また、尿失禁の原因として、結石やガン、子宮下垂などの疾患が潜んでいることもあります。

 今回、尿失禁について2回に分けてご説明します。

 尿失禁は大きく、(1)新しい治療法が保険適応となった切迫性尿失禁(2)手術で治る可能性のある腹圧性尿失禁(3)緊急性の高い溢流(いつりゅう)性尿失禁―の三つのタイプに分けられます。

■切迫性尿失禁

 切迫性尿失禁とは、尿意を催すとトイレまで我慢できずに漏れてしまう症状です。

 多くは過活動膀胱を原因とする症状で、急な尿意でトイレに駆け込むといういわゆる「待ったなし尿漏れ」です。この症状でお悩みの患者さんは、急な耐えがたい尿意が起こるかもしれないという不安があるため、外出時に常にトイレの場所を確認される、食事会や旅行に参加することも億劫(おっくう)に感じるなど日常生活に大きな影響を及ぼします。

 切迫性尿失禁は、薬を飲み続けて症状を緩和する治療が中心です。しかし、薬でも症状が改善しない方や、便秘や口が乾くといった副作用で薬を飲み続けられない方もおられ、治療が難渋することも少なくありませんでした。

 そのような中で、新しい治療方法「ボツリヌス毒素膀胱壁注入療法」が開発され、日本でも2020年に保険適応となり、当院でも行っております。ボツリヌス毒素と聞けば、危険なものと感じられるかもしれませんが、世界で安全と効果が確認され、いろんな疾患に使用されています。A型ボツリヌス毒素を膀胱内壁へ注射することで、排尿筋に弛緩(しかん)作用を促し、尿失禁や頻尿など過活動膀胱による症状の改善が見込めます。

 当院では、日帰りで治療を行っております。外来で膀胱局所麻酔を行った後、手術室で膀胱の筋肉に細い針でボツリヌス毒素を100単位、20カ所に分けて注入します。手術時間は20分程度で、術後1~2時間ほど様子をみて排尿の状態を確認し帰宅いただきます。効果は通常2~3日で現れ、4~8カ月にわたって持続します。効果が弱まり、再発した場合は、前回投与から3カ月空けて再投与を検討します。合併症としては尿が出なくなる尿閉(5%)、尿路感染症(7%)などがあり、慎重に適応を評価し治療を行います。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 おおいわ・ゆうこ 山口大学医学部卒。岡山大学医学部附属病院泌尿器科学教室入局。岡山医療センター後期レジデント、岡山大学病院泌尿器科医員を経て2021年から岡山中央病院。日本泌尿器科学会専門医、泌尿器腹腔鏡技術認定医、がん治療認定医。医学博士。

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年11月18日 更新)

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