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(6)データと経験を活かして地方で全国レベルの心臓治療を 国立病院機構岡山医療センター心臓血管外科医長兼心臓手術責任者 畝大

心臓血管外科チーム。専門性の高いメンバーで、一丸となって治療に当たっています。畝医長は前列左から2人目

 岡山医療センター心臓血管外科ではデータと経験を活(い)かして岡山という地方都市から関東圏と変わらない安全性と術式を提供できることを目指しています。また「救急体制の整備」や「サテライト外来の確立」を行うことにより中四国広範囲の患者さんを対象としています。結果的に治療成績の向上、紹介患者さんの増加へとつながっています。

 患者さんやご家族と向き合ってきた結果、患者さんの人生を今後ずっと支えていける治療を心がけるようにしています。そのために過去の膨大なデータ解析や発表から、メリットの無い無駄な治療や早すぎる段階での治療は勧めないように注意して、よりよい手術方法や時期を提示させていただきます。

 主観的な「早く手術受けたほうがいいよ」「ほっとくと危ないよ」といった声かけではなく、手術を受けた場合と受けない場合のリスクをできるだけ数値化してお話しするようにしています。必ずしもデータ通りではないところは神奈川県勤務時やカナダ留学時を含む2千例以上の心臓手術経験(1千例以上の執刀経験)を加えてお話しします。

 安全面には気をつけて、人工心肺技師や手洗いナース、研修医とともに定期的に手術カンファレンスやシミュレーションを行い技術と安全性の向上に努めるようになりました。術後管理でも平日朝夕2回は複数の専門医を含むチームで管理方法を話しあいます。他科トラブル時(糖尿病血糖コントロール、排尿困難、消化器トラブル、脳神経疾患など)にはすぐ他科の協力も得て万全なバックアップのもと術後管理を行っています。

 治療選択に関して、患者さんにとって国内で行える一番良い治療を選択したいと思っています。ほとんどの治療が一般化されており当院にて安全に行えています。

 一方で、肺動脈血栓内膜摘除術や胸腹部大動脈瘤(りゅう)人工血管置換、大動脈弁形成術など難易度が高く専門性が非常に高い手術に対しては国内第一人者を当院へ招聘(しょうへい)して対応しています。岡山であっても関東圏や欧米と変わらない治療術式と成績を提供しています。

 単純比較は難しいですが、総合病院である当院に移り緊急手術、高齢者や透析患者さんなど随分たくさんの重症症例を扱っています。専門病院では取り扱えず断られることもある他疾患併発患者さんが多いためです。時に胃がんや膀胱(ぼうこう)がんなど悪性腫瘍で出血中や脳梗塞発症直後といった心臓手術を行うこと自体が危険な状態の患者さんもいらっしゃいます。

 当院勤務となりハイリスク症例が随分増えた印象に関わらず、少なくとも担当する範囲では心臓病専門病院勤務時よりも術後死亡率は低下しました。当院で心臓手術後に入院継続中または術後1カ月以内に亡くなられた方は2020年1・6%(2人/124人)、21年は1~10月末の心臓手術でゼロです。

 死亡率以外にも合併症を減らし長期入院を減らすこと、外来フォローを頻回に行うことで患者さんの満足度を上げるなど、より良い治療を求め現行に満足することなく今後もチーム一同精進していきます。

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 国立病院機構岡山医療センター(086―294―9911)。連載は今回で終わりです。

 うね・だい 岡山大学卒業。広島市民病院や心臓病センター榊原病院勤務、カナダのトロント大学とオタワ大学留学を経て、2014年に大和成和病院(神奈川県)心臓血管外科主任部長。18年夏より自分の好きな町である岡山に帰岡。低侵襲手術や大動脈弁置換術にて国際論文発表多数。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年12月06日 更新)

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