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(3)気になるおしものふくらみ、放置しないで~骨盤臓器脱~ 岡山中央病院泌尿器科医師 小林知子

小林知子氏

 骨盤臓器脱とは、膀胱(ぼうこう)や子宮、直腸といった骨盤内の臓器が、腟(ちつ)壁と一緒に下垂・脱出する病態の総称です。加齢によって、骨盤底を支持している靱帯(じんたい)や腟壁が弱くなったところに、腹圧がかかって靱帯や腟壁が引き伸ばされる、というのが一般的な発症のしくみです。前側の腟壁が脱出すれば膀胱瘤(りゅう)となり、後ろ側の腟壁が脱出すると直腸瘤となることが多いです。子宮は腟部がそのまま出てくるため、子宮脱となります。また、子宮を摘出した後の腟壁も脱出することがあり、腟断端脱や小腸瘤と呼ばれます=図1

■どんな症状?

 「腟から何かやわらかいものが出てくる」。これが多くの患者さんが最初に自覚する症状です。通常この時点では、痛みや出血といった差し迫る症状がないため、放置している患者さんがほとんどです。進行すると、いつも股の間に何か挟まっているような不快感の出現とともに、尿や便がうまく出せなくなります。

■治療法は?

 骨盤臓器脱は、薬を飲んで治すことはできません。下垂が軽度である場合は、ペッサリーと呼ばれる器具を腟内に挿入して、補正することができます。また、減量(ダイエット)や便秘の治療、骨盤底筋トレーニングを行って、症状の悪化を防ぎます。それでも排尿や排便がうまくできない、ペッサリーが合わないなどの場合には、手術を行うことになります。

 手術には大きく分けて、(1)メッシュを用いない腟壁形成手術、(2)経腟メッシュ手術、(3)腹腔鏡下(ふくくうきょうか)メッシュ手術の三つがあります。

 (1)は子宮を摘出したうえで余剰の腟壁を縫い合わせて、腟壁が下垂・脱出しないように形成する方法で、いちばん昔からある手術です。術後のトラブルが少なく優れた手術ですが、もともとゆるんだ組織を縫い合わせるため、再発の頻度が高く、3~4割とも言われています。そのため2000年ころから補強材としてメッシュを用いた手術が行われるようになりました。

 (2)の経腟メッシュ手術は手術時間が短く、腟壁の強いサポートが得られるのが特長です。しかし、メッシュの腟壁への露出、メッシュアームによる痛みといった合併症が欧米を中心に報告されたため、現在わが国では適応を慎重に判断したうえで、熟練医のみが行える手術となっています。

 (3)の腹腔鏡下メッシュ手術は、ほとんどが腹腔鏡下仙骨腟固定術と呼ばれる術式です。12年に日本に入ってきてから、経腟メッシュに代わって広く行われるようになり、20年にはロボットを用いた手術も保険適応となりました=図2

 傷が小さくてすみ、術後の痛みも軽く、退院後すみやかに日常生活に戻ることができます。仕事や趣味などに活動的な女性に、また腟の長さが保たれることから、セックスのある女性に特に適しています。

■気になればまず受診を

 最近は骨盤臓器脱が健康番組などで取り上げられることも増えてきました。それでも、デリケートな部分の疾患なだけに、受診をためらったり、そもそも何科を受診すればいいの? と迷ったりする患者さんも少なくありません。女性泌尿器科が、そんな患者さんの良き窓口となれればと思っています。

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 岡山中央病院(086―252―3221)

 こばやし・ともこ 岡山一宮高校、千葉大学医学部卒業。岡山大学泌尿器科入局。岩国医療センター、岡山大学病院を経て2008年より岡山中央病院。日本泌尿器科学会専門医、指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年12月20日 更新)

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