県内病院 コロナ患者みとり模索 家族の心情に寄り添う試み続く
「絶対に会えないと思っていた。亡くなる前に顔を見ながら声を掛けられてよかった」
津山中央病院(津山市)に届いた1通の手紙につづられた感謝の言葉。家族をコロナで亡くした遺族がスタッフに宛てたものだ。
同病院は昨年11月、コロナの重症患者が入院する隔離病棟で面会してもらう態勢を整えた。いまわの際を見極め、意識があるうちに家族へ連絡。防護服に医療用マスク、手袋などを着けて約10分間会ってもらう。
その少し前から、家族と会えずに亡くなるコロナ患者が出始めていたという。「何とかみとりの時間を」と看護師から声が上がり、一度に入室できる家族は2、3人までとするなど、実践する方法を決めた。
西川秀香統括看護部長は「自分の家族だったらという思いだった。少しの時間でも会うことで、大切な人の死を受け入れる覚悟ができる」。感謝の手紙は、取り組みを始めて間もないころに寄せられたという。
国ルールなし
コロナ患者のみとりの在り方は、昨年3月に亡くなったタレント志村けんさんの親族が遺体に対面できず、自宅で遺骨を受け取ったことで社会の関心が集まった。ただ、国はみとりに関するルールを設けておらず、判断は各医療機関に委ねられている。
岡山県内では初めてコロナ感染者が確認された同3月22日以降、136人の感染者が死亡。この間、医療機関はみとりの方法を手探りしてきた。
感染期間を考慮し、発症から原則20日間を経過した場合、隔離病床から一般病床に移してみとってもらうのは岡山済生会総合病院(岡山市)。こちらも看護師から声が上がり、今年5月に亡くなった高齢女性で初めて行った。4月中旬の入院から23日後に一般病床へ移ったこの女性は、家族に手を握られ、息を引き取ったという。
岡山大病院(岡山市)は防護服などを着ての面会を、同市立市民病院は隔離解除して一般病棟でのみとりを実施。倉敷中央病院や川崎医科大付属病院(いずれも倉敷市)はオンラインを活用している。倉敷中央病院は意識がある場合はモニター越しに会話をしてもらう。
グリーフケア
従来のようなみとりが難しいコロナ禍では、家族の悲しみを癒やす「グリーフ(悲嘆)ケア」がこれまでにも増して課題となる。
同ケアに詳しい龍谷大(京都市)の黒川雅代子教授は「通常は枕元に寄り添うことで家族の『死』を受け入れる準備をしていくが、コロナ禍では難しい」と指摘。「家族に『死』は避けられなかったと納得してもらうため、病院は治療の様子を丁寧に説明する努力をすべきだ」と話す。
岡山県内では、岡山市立市民病院が、息を引き取る間際の数日間の患者の様子を記録にして遺族に渡したり、津山中央病院がケアの状況を電話などで伝えたりと、家族の心情に寄り添う試みを始めている。
(2021年12月27日 更新)