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(5)元日は、村の歴史を踏みしめ三社参り 雪の中 年末年始も往診へ

土地の惣社宮である新庄神社=2021年12月31日

新庄村の雪景色=2022年1月2日

 新庄村内科診療所は村の機関ですので、12月28日が一応仕事納めで、新年4日から診療所は再開となります。

 昨年の4月までは川崎医科大学衛生学教室で研究と教育に携わっていたので倉敷市在住でした。現在は村の医師官舎に単身で赴任しています。

 年が改まって、多くの患者さんとは「明けましておめでとうございます」から診療の会話が始まるのですが、中には単身赴任をご存知の方もいらっしゃって「倉敷に帰ったの?」って聞いてくださる方も。「残念ながら、帰らなかったんよ。大晦日(おおみそか)から元旦も雪だったし、少し用事もあって…」と答えています。

 というのも、患者さんのSさん。後期高齢者間近の女性です。年末から少し食事がとれなくなってきたのでした。診療所を開けている間は診療所で点滴、水分補給に若干の栄養分も。そうすると少し元気が出るようで、診察が終わって帰られる時には笑顔が見えることもしばしばでした。

 年末年始にずっと点滴をお休みするかというと、そういうわけにはいきません。Sさんの微笑は医療を提供する側にとってささやかな安らぎでもあって、看護師さんと相談しました。「年末はボクが往診して点滴をします! 元旦はお休みさせていただいて、年始はK看護師さんにお願いしましょう」となりました。

 SさんだけでなくHさんのこともありました。昨年から臀部(でんぶ)にできた腫瘤(しゅりゅう=できもの)の治療に難渋していたのです。霜月くらいからは外科系の病院に入院していただいて、なんとか切除してもらいました。悪性(がん)ではなく、傷もだいぶんよくなっているのですが、もう少し、きれいな肉芽(にくげ=毛細血管に富んだ新生結合組織)が盛り上がるように軟膏(なんこう)を塗ったりしたいなぁってことで、年末年始にも2回ほど来院してもらい処置をしたのです。

 新庄で迎えた初めての元日は雪の中、官舎の近くのお宮を参拝しました。この郷の惣社宮である新庄神社、その北側の御鴨神社(美作郷の総鎮守の大神で往古は、新庄宮座山の山上に鎮座していた)、診療所の西に位置する大歳神社(農業の神である大歳の神は大国主命(おおくにぬしのみこと)にも協力して出雲平定に尽力したとのこと。寛永の頃には、雲州の国造が暴風雨の困難からの避難もあった宮との由)の三社参りを徒歩でさせていただきました。積もった雪に、新庄村ならではの歴史の重みを踏みしめるような想いでした。

 初夢は元日夜から2日朝にかけてと言いますが、それをまだ見ぬ朝4時すぎ、看護師さんから連絡がありました。診療所から転送される電話を受けたようです。師走後半にずっと抗生物質を投与していた百歳近い女性が、深夜から胸部の不快感を訴えられているとのことです。いわゆる老年症候群で介護を受けられている患者さんです。看護師さんと診療所で落ち合って、心電計なども携えながら往診へ。幸いにも大事ではなく準備していた注射と投薬で、その後は落ち着いた様子でした。

 4日からはいつもの診療風景です。まだ寒い日々が続いていますが、立春(2月4日)はつい先日のことでした。診療所にはきょうも患者さんの声が響いています。日々の積み重ねが歴史なら、今年もその頁(ページ)には新しい何かが刻まれて行くのでしょう。見詰めながら、踏み締めながら。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年02月07日 更新)

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