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(4)尿路感染症とバイオフィルム 笠岡第一病院副院長・泌尿器科部長 古川洋二

古川洋二氏

 尿路感染症とは尿路に細菌が侵入し尿路上皮に炎症をきたす状態を指します。

 一般的にはお尻周囲の腸内細菌(多くは大腸菌)が外尿道口より侵入し、膀胱(ぼうこう)痛、頻尿などの下部尿路症状を示す膀胱炎と、高熱(38度以上)や背部痛などを主症状とする腎盂(じんう)腎炎の二つに大別されます。

 通常尿路は一定の尿流と定期的な排尿で浄化され、細菌からの防御を示す尿路上皮粘膜バリアによって細菌感染を防いでいます。しかし、脱水による尿流の停滞や排尿が障害されたりすると膀胱内で細菌が増殖し、尿路感染症を引き起こします。

 尿路感染症は基礎疾患の無い単純性と前立腺肥大症、がん、尿路異物(尿路留置カテーテル、尿路結石など)の基礎疾患のある複雑性に大別されます。治療はいずれも抗生物質の投与ですが、前者は比較的容易に治癒する一方、後者は難治性で慢性化しやすい特徴があります。

 複雑性尿路感染症の代表的な疾患に尿路結石が挙げられます。

 尿路結石は尿路の閉塞や上皮の損傷をきたし、それだけで尿路感染症の一因となりますが、加えて、結石に付着した細菌は増殖しながらねばねばした菌体外多糖(グリコカリックス)を産生し細菌全体を包む膜(バイオフィルム)を形成します。これによって細菌は粘膜バリアを破壊し、定着と増殖を繰り返し細菌塊を形成、抗生物質の効果を著しく阻害し、難治性の尿路感染症となります。

 このような難治性の感染症をバイオフィルム感染症と呼び、これらの感染症は異物を取り除かない限り治りません。

 尿路結石は解剖学的な場所によって腎結石、尿管結石、膀胱結石と呼称され、いずれもバイオフィルム感染症をきたします。尿管は両側の腎臓で作られた尿を膀胱まで運ぶ長さ約25センチ、内腔(ないくう)約5ミリの細い管で、尿管結石によって尿流が閉塞すると結石に付着した細菌の増殖をきたします。

 この感染は尿の停滞により尿路内にとどまらず全身に波及し多臓器不全をきたすこともあります(この状態を泌尿器科的敗血症と呼びます)。特に尿路感染症を伴った尿管結石では尿流の閉塞を解除し早急に結石を除去する手術が望ましいです。

 当院では過去5年間に泌尿器科的敗血症を伴った尿路結石を56人経験し、積極的な尿路感染症の治療と経尿道的手術を中心とした結石破砕術を行っております。特に発熱を伴った尿路結石の方は重症化する前に早期発見・早期治療が重要です。

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 笠岡第一病院(0865―67―0211)

 ふるかわ・ようじ 川崎医科大学・同大学院卒業。川崎医科大学泌尿器科(講師)などを経て2002年から笠岡第一病院泌尿器科部長、03年から同副院長兼務。日本泌尿器科学会専門医・指導医、西日本泌尿器科学会評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年02月21日 更新)

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