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人工関節手術 安全確実に 岡山市立市民病院整形外科 藤原一夫主任部長

藤原一夫主任部長

岡山市立市民病院整形外科が使っているナビゲーションシステム

岡山市立市民病院が21年8月に導入した米国製の人工膝関節手術支援ロボット「ROSA Kneeシステム」

 高齢化に伴い、膝や股関節を痛める人は増えている。悪化すると歩けなくなり、要介護となる主な原因の一つだ。岡山市立市民病院(岡山市北区北長瀬表町)整形外科は、そうした変形性膝関節症、股関節症の重症患者に対し、手術支援ロボットやナビゲーションシステムを活用して人工関節に置き換える手術を提供している。蓄積した知識と経験にIT技術をミックスした精度の高い治療で、合併症のない早期の回復と健康寿命の延伸を目指す。

 変形性膝関節症、股関節症は関節軟骨がすり減って炎症が起き、痛みが生じて動きが悪くなる病気だ。軟骨はすり減ってしまうと元には戻らない。症状が軽ければ鎮痛剤を使ったり、周辺の筋肉を鍛える訓練や減量などで対処できるが、痛みが強くなって生活に大きな支障が出るようならば、人工関節置換術が治療の有力な選択肢となる。

 その際、手術の安全性と確実性を高めてくれるのがナビゲーションシステムや手術支援ロボットだ。

 岡山市立市民病院整形外科主任部長の藤原一夫医師(人工関節センター長)は、岡山大学病院時代から研さんを積んだ人工関節置換術のスペシャリスト。これらITシステムの機能を、くねくねした山道での自動車運転に例えてこう話す。

 「ナビは事前にルートが確認でき、運転中に正しいルートを走っているのかどうかを示してくれる。ただ、運転するのはあくまでも自分。熟練者であっても路面の状況が悪かったり、ハンドル操作次第では道から外れて崖下に落ちることがある。手術支援ロボットはレールを敷いてくれ、その上を走るので正しいルートから外れない」

三次元映像 

 藤原医師によると、人工関節置換術を行う際、従来は関節のレントゲン写真に、人工関節のインプラント(部品)の形状などを描き込んだトレーシングペーパーや透明フィルムを重ね、そのサイズ、設置する位置、角度を検討。二次元の平面上で術前計画を立てていた。実際の手術では計画どおりに行かない部分もあり、そこは術者の「経験と感覚」で補っていたため熟練度によって結果に差が出た。インプラントを取り付ける角度がずれ、術後に関節の動きが悪かったり、脱臼することもあったという。

 ナビゲーションシステムが臨床現場に登場したのは2000年ごろ。CT画像データをコンピューターで再構成した三次元映像を使い、より実際に即した綿密な術前計画が立てられるようになった。手術中の視野の狭さ、不明瞭さも解消した。手術器具やインプラントが筋肉などの軟部組織に隠れて見えにくかったとしても、赤外線センサーなどによって関節との位置関係をコンピューター画像で示してくれるからだ。

アシスト機能 

 それでも人工関節を最適な形で設置するのは容易ではない。電動器具で骨を切ったり穴を開ける際、震動や反動で手ぶれが生じて位置や角度がわずかにずれるなど、ある程度経験を積んだ術者でも「外れ値」が生じることがあるという。

 わずかなずれであっても術後の違和感や動きやすさ、人工関節の耐用年数に影響する。そうしたリスクを解消するため、ナビゲーションシステムに手術中のアシスト機能を付けたのが手術支援ロボットだ。

 市民病院は21年8月、米国製の人工膝関節手術支援ロボット「ROSA(ロザ) Knee(ニー)システム」を岡山県内で初めて導入。変形性膝関節症の患者を対象に、2月末までに52例の人工関節置換術を実施した。

 藤原医師によると、「ROSA Knee」システムは、本体から伸びるアームが骨を切る電動器具を最適の位置に誘導し、強い力で手術中の手ぶれも抑えてくれる。患部が動いたとしてもその動きにアームが追随し、最適の位置と角度を保持する。術者が術前計画から少しでも外れた動きをすると、セーフティー機能が働きアームは動かなくなるという。

より良い生活 

 ナビゲーションシステムと手術支援ロボットを駆使する藤原医師は「安全」で「確実」な手術に強くこだわる。それはより高い完成度を目指し、術後の患者のより良い生活を願っているからだ。

 長寿社会を迎え、これまで以上に人工関節を必要とする患者は増えると藤原医師は言う。しかし、「人工関節は怖い」などの理由で手術に適した時期を逃してしまう患者も少なくないと指摘する。

 藤原医師は「いよいよ動けなくなってから手術を受けるのではなく、まだ歩けるときに人工関節を入れれば活動の可能性は大きく広がる。関節の痛みから解放され、楽に歩けるようになります」と話している。

 ふじわら・かずお 岡山白陵高校、岡山大学医学部、同大学院卒。岡山大学整形外科助教、岡山大学医歯薬学総合研究科運動器知能化システム開発講座准教授を経て、2018年4月から岡山市立市民病院勤務。岡山大学医学部医学科臨床教授。医学博士。日本整形外科学会専門医。日本リウマチ学会専門医。日本人工関節学会認定医・評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年03月07日 更新)

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