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(29)大動脈瘤ステントグラフト留置術 心臓病センター榊原病院 吉鷹秀範副院長(49) 負担少なく、早期に社会復帰 人工血管で破裂防ぐ

日夜の手術に追われながら、外来もこなすなど多忙を極める吉鷹副院長。手にしているのがステントグラフト

 少なからぬ人が、体内にいつ爆発するかもしれない“時限爆弾”を抱えている―。そう言ったら驚かれるだろうか。だが、自覚症状をもたらさないまま拡大を続け、ある時突然に破裂、往々にして命を奪う「大動脈瘤(りゅう)」とは、まさしくそんな存在に違いない。

 「破裂前に瘤のある部分を人工血管にしてやることが必要です。一般的に腹部の大動脈瘤なら5センチ大、胸部なら6センチ大が目安になります。残念ながら薬では小さくできません」

 吉鷹は心臓血管疾患治療のエキスパート。これまでに冠動脈バイパス手術や心臓弁膜症手術をはじめ4000例を超える手術に携わってきた。特に大動脈瘤の治療実績は有数で、体を開いて人工血管に置き換える従来の手術に加え、1998年からはいち早くカテーテルを使ったステントグラフト留置術をスタート。同留置術は保険適用(腹部が2007年、胸部が08年)以降だけでも300例に達し、今や腹部の半数、胸部の3分の1を占める。

 ステントグラフトとはバネ状の金属を付けた人工血管のこと。脚の付け根を3〜4センチ切開して動脈から瘤までカテーテルを入れ、圧縮したステントグラフトを挿入、広げて固定・留置する。大きく切らない新たな治療法として注目されているが、吉鷹が始めた当初は企業製品がなく、自作の血管を開発して対応。その成果で岡山県医師会学術奨励賞(02年)を受賞してもいる。

 患者の中心は高齢者。入院が長いほど体力が落ち、人によっては寝たきりになる恐れがある。体への負担の少ない留置術にすることで「回復が早まり、社会復帰しやすくなる。合併症などで従来の手術が困難な人も助けられる」と吉鷹。例えば腹部の場合、開腹手術では通常2週間の入院が必要になるのに対し、留置術では1週間、希望すれば3日で退院ができる。

 患者に優しい半面、過不足ないサイズのステントグラフトの選択や瘤までのアクセスの決定など、画像診断に基づく事前の治療プラン作成は容易でなく、カテーテルの操作も含めて術者に求められるレベルは高い。万一の際の設備や医療スタッフも欠かせず、関連学会は共同で施設・医師の基準を設定、実施を限定しているほどだ。吉鷹は腹部、胸部の両方で「指導医」として認められている。

 実は吉鷹の心臓血管外科医としての人生は、心臓カテーテルとともに始まった。大学から大学院に進み、修了後最初に赴任した広島県内の病院。2年間で1000例に上る検査・治療を重ね、現在への基礎を築いた。

 本格的に手術を学んだのは、国立循環器病センター(現国立循環器病研究センター、大阪府)に移ってからの3年間。高度医療機関だけに難治療の患者が多く、手術もスムーズに運ぶものばかりではなかった。が、その分、「あらゆる“リカバリーショット”の打ち方を学んだ。自分の中の引き出しが増えていった」と振り返る。

 当時の師は、後に東京大医学部教授として医学教育改革を推進した高本眞一。現在は三井記念病院(東京都)の院長、日本心臓血管外科学会理事長の要職も務める。その高本が掲げたのが、医療者と患者が信頼で結ばれた「患者とともに生きる医療」。榊原病院で吉鷹が目指す医療でもある。

 そのため吉鷹は休日も一度は病院に足を運んで入院患者と会話を交わす。副院長となった今もその姿勢は変わらない。途中、40歳の時には自身が大病を患い、100日間の入院生活を体験。「患者さんの不安や孤独を肌で感じた」といい、回復後は患者とともに生きる思いをさらに強くしている。

 今後一層の普及が見込まれるステントグラフト留置術。とはいえ、瘤の位置や血管の状態によっては開腹・開胸手術が優先される場合もまだ多く、留置術と手術の組み合わせが必要な場面もある。吉鷹はそんなケースに応じていずれの治療も提供できる。その上、治療を受ける側の気持ちも理解できる。患者に信頼される理由がここにある。(敬称略)

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 よしたか・ひでのり 高松高から香川医科大(現香川大医学部)を経て、1991年に香川医科大大学院修了。96年から心臓病センター榊原病院に勤め、2002年に外科部長、05年から現職。

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 大動脈瘤 横隔膜より上が「胸部大動脈瘤」、下が「腹部大動脈瘤」。多くは腹部にできる。動脈硬化などで血管がもろくなるのが原因で、血流で血管壁が膨らむタイプと、血管壁の内部に血流が入り込む「解離性大動脈瘤」がある。健診や他の病気の検査で偶然発見されやすい。

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 外来 吉鷹副院長の外来は火曜日午前。

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心臓病センター榊原病院

岡山市北区丸の内2の1の10

電話086―225―7111

メールアドレスsakakibara−hp@sakakibara−hp.com
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年11月21日 更新)

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