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第10回「骨粗しょう症」

曽根照喜教授

大成和寛講師

 人間の体は200個余りの骨によって支えられている。骨粗しょう症で骨がもろくなると、ちょっとした転倒などの衝撃で折れてしまうことがある。これを繰り返すと寝たきりや、さらには死亡のリスクも高まるという。国内の骨粗しょう症患者は1000万人以上とも言われ、高齢化でその数は増えている。どのようにすれば寝たきりのリスクを減らせるのか。川崎学園特別講義の本年度最後となる第10回は「骨粗しょう症」がテーマ。川崎医科大学放射線核医学の曽根照喜教授と脊椎・災害整形外科学の大成和寛講師に話を聞いた。

「骨粗しょう症とは」 川崎医科大学放射線核医学 曽根照喜教授

 高齢になると骨密度が低下し、骨がもろくなります。日常のちょっとした動作で、例えば椅子から立ち上がろうとして脊椎を圧迫骨折した方もいます。それは骨粗しょう症です。

 ■絶えず新陳代謝

 骨密度とは骨をつくるカルシウムなどの詰まり具合であり、骨の量です。骨にはカルシウムとタンパク質の一種であるコラーゲンがいっぱいあります。網の目のようなコラーゲンにカルシウムがくっついて骨を形作っています。

 骨は一度つくられると変化しないようにみえますが、実際は絶えず入れ替わっています。古い骨が壊され(吸収)、新しい骨に置き換わり(形成)、しなやかで適度な硬さを保っています。この新陳代謝、吸収と形成のバランスが損なわれると骨の量が減少して折れやすくなります。

 女性は閉経後、女性ホルモンが減って新陳代謝のバランスが崩れ、骨吸収が多くなります。男性と比べてもともと骨が細いことも骨粗しょう症になりやすい要因の一つです。

 運動不足やカルシウムの摂取不足、遺伝的な体質、糖尿病や腎臓病など骨の代謝に影響するような病気をもった人も骨粗しょう症になりやすいといえます。

 ■寝たきりの要因

 骨粗しょう症は自覚症状のないまま徐々に進行します。進行すると背中や腰の骨が折れて激しい痛みで寝込んだり、少し転んだだけで脚の付け根を骨折するようになります。

 最初の骨折の後、放っておくと連鎖的に骨折が起きます。ひどくなると背中が大きく曲がって身長が縮み、日常生活にも不自由が目立つようになり、寝たきりの原因の一つとして社会問題化されています。

 背中が曲がると胸やおなかの内臓を圧迫するため、呼吸や循環の働きが弱められ、誤嚥性肺炎や逆流性食道炎といった呼吸器、消化器の病気も起こしやすくなります。活動性や自律性の低下のみならず、その後の死亡率上昇と関連する疫学データもあります。

 ■早期発見・治療が大切

 骨粗しょう症による骨折で困らないようにするには早期発見と早期治療が大切です。早期の発見では骨の量を測る検査(骨密度測定)が中心となります。骨の量は20歳ごろをピークに少しずつ減っていきます。一定の年齢になれば骨密度を測ったり、脊椎のエックス線写真を撮ってもらうのが良いでしょう。

 昔は骨折が起こってから初めて骨粗しょう症と診断され、骨折に対する処置が骨粗しょう症の治療の中心でした。ところが、骨密度の測定によって骨折する前に骨粗しょう症の状態を知ることができるようになってからは、「骨折の予防が骨粗しょう症治療の目的」と考えられるようになっています。

 高血圧や脂質異常を治療して脳卒中や心筋梗塞の発症を予防するのと同様です。重症の骨粗しょう症に至る前に早めに対策をとることが健康な老後のために大切といえます。

「治療と転倒予防」 川崎医科大学脊椎・災害整形外科学 大成和寛講師

 骨の新陳代謝は骨を形成する骨芽細胞と骨を吸収する破骨細胞が担っています。骨粗しょう症は破骨細胞の働きに対して骨芽細胞の働きが劣っている状態です。すなわち、吸収される量に形成する量が追いつかず、結果、骨が減ってしまいます。

 ■骨形成促進薬と骨吸収抑制薬

 骨粗しょう症の治療薬は、骨芽細胞の働きを活発にする骨形成促進薬と、破骨細胞の働きを抑える骨吸収抑制薬に分類できます。患者さんそれぞれにあった選択が必要です。また、薬剤を使う順番や患者さんによっては使ってはいけない薬剤などもあり、注意が必要です。

 「ビスホスホネート製剤」(BIS)は骨吸収抑制剤です。以前から広く使われていますが、最近は骨吸収を抑制する強度が上がっています。注射薬と内服薬があり、注射は1カ月に1回、1年に1回の2種類、内服薬には毎日、毎週、毎月内服があります。まれではありますが、副作用として胃腸障害(内服のみ)やインフルエンザのような症状の急性期反応、顎骨壊死(がっこつえし)(顎(あご)の骨の骨髄炎)などの合併症があります。

 ただ合併症はまれで、骨折が防げるメリットは大きいと考えます。

 他の骨吸収抑制剤には女性ホルモンの骨に作用する成分のみを抽出した「選択的エストロゲン受容体モジュレーター製剤」(SERM)や、破骨細胞の分化を阻害する「抗RANKL抗体製剤」があります。

 ■両方の作用を発揮

 骨形成を促進するのは「副甲状腺ホルモン製剤」(PTH)です。PTHは副甲状腺から生理的に分泌されるホルモンです。間欠的に投与すると骨密度が増加します。

 最新の「抗スクレロスチン抗体製剤」は骨形成促進と骨吸収抑制の両方の作用を発揮する初めての治療薬です。スクレロスチンは骨形成を抑制し、骨吸収を促進する糖タンパク質です。その働きを阻害します。

 小腸からのカルシウム吸収を助けて骨量の減少を抑えるビタミンD製剤、カルシウム製剤、ビタミンK製剤もあります。

 ■転倒予防

 骨粗しょう症の治療は転倒しても骨が折れないようにするために行われます。発想の転換をすると、転倒を予防できれば骨が弱くても骨折しないかもしれません。骨粗しょう症の治療と転倒予防を行うと、さらに骨折を予防できます。

 転倒予防には転倒しない体をつくることが重要で、筋力増強やバランス・歩行・柔軟訓練などがあります。環境因子には服薬・食事指導、環境整備、行動変容などがあります。

 服薬では、血糖や血圧の薬、睡眠薬などが効きすぎると転倒の原因となります。食事はビタミンDとカルシウムの摂取を心がけましょう。環境整備、行動様式は部屋を明るくしたり、床に物を置かないようにしたり、カーペットを固定するといった工夫をすることです。転倒しない体と転倒の原因を排除した環境作りが大切です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年03月21日 更新)

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