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夜間頻尿 治療は生活習慣改善から 岡山中央病院泌尿器科 橋本英昭部長

橋本英昭部長

 高齢になると、おしっこのため夜中に何度か目が覚める「夜間頻尿」が気になってくる。「年のせいだ」と諦めがちだが、毎晩のように安眠が妨げられると睡眠不足で日常生活に支障が出る。暗い中、トイレに行けば転倒によるけがや骨折の危険もある。どうすればおしっこの回数が減ってぐっすり眠れるのか。岡山中央病院(岡山市北区伊島北町)泌尿器科部長の橋本英昭医師は「夜間頻尿の治療は生活習慣の改善から。症状によっては薬物療法が効果がある」と指摘する。

 夜間頻尿は男女を問わず多くの人々に見られる症状だ。その頻度は年齢とともに上昇する。「排尿のため夜間に1回以上起きなければならない状態」と医学的には定義されている。橋本医師によると、臨床上は「2回以上」で、本人や家族が生活に支障を感じていれば治療対象になるという。

「夜間多尿」最多

 夜間頻尿の原因は、夜間多尿▽膀胱(ぼうこう)容量の減少▽睡眠障害―の三つに大きく分けられるが、これらが重なり合うこともある。

 診断に役立つのが「排尿日誌」だ。24時間、排尿の時刻と排尿量を計量カップなどで測って記録する。日誌を付ける期間は「3日程度」でよいという。

 65歳以上では、24時間尿量のうち夜間尿量の割合が33%を超えると夜間多尿と診断される。夜間頻尿で最も多いのが夜間多尿だ。

 「本来、尿は日中に多くつくられ、夜間は少なくなるようになっている」と橋本医師は説明する。睡眠中は脳の奥にある脳下垂体から抗利尿ホルモンが分泌され、尿の排出が制限されるからだ。抗利尿ホルモンが加齢などで減ると夜間の排尿回数が増えてくる。加えて糖尿病や高血圧、腎臓機能の低下、水分や塩分の過剰摂取も夜間多尿を招く。

昼寝や散歩も有効

 治療は生活習慣の改善が中心となる。水分の取り過ぎには要注意で、橋本医師は「脳梗塞や心筋梗塞の予防のためだと言って、寝る前に水をたくさん飲んでいる患者さんがいらっしゃいます」と苦笑する。水を多く飲んでも血液粘調度(血液のドロドロ度)に大きな変化はないそうだ。一日の適切な飲水量は「汗をかくような運動をしていない人であれば体重の2~2・5%」で、体重50キロの人では1リットル程度になる。

 日中にあまり体を動かさないと下肢に水分がたまりがちなので、クッションなどをあてがい、脚を上げて短時間の昼寝をすると水分の排出を促せる。脚のむくみの解消には夕方の散歩も有効だ。夜間の尿量を減らし、ストレス解消になって安眠につながる。

 最近は、抗利尿ホルモンと同様の働きをするデスモプレシンという飲み薬が発売されているが、副作用があるので、専門医による管理が必要だという。

膀胱容量が減少

 一方、膀胱容量の減少は「たびたび尿意がありトイレに行かなければならないが、尿の量はそんなに多くはないという状態」。

 加齢などで膀胱の筋肉のしなやかさが失われ、広がらなくなって1回にためられる尿量が減ってしまう。通常、1回の排尿量は200~300ミリリットルだが、膀胱容量の減少は「100ミリリットル程度が目安」となる。このことも排尿日誌を付けていれば明らかだ。

 過活動膀胱や前立腺肥大症、間質性膀胱炎、骨盤臓器脱などが原因となっている場合が多い。膀胱の異常な収縮を抑制したり、膀胱の筋肉を弛緩させたりする抗コリン薬、β(ベータ)3作動薬などによる薬物療法や、手術で改善が見込めるという。

睡眠障害と関係

 睡眠障害と夜間頻尿は密接に関係している。「トイレに行きたくなって目が覚めた」と思っている人の中には「眠りが浅いために目が覚め、その際、トイレに行くのが習慣になっている人もいる」。目覚めた後、なかなか寝付けなければ不眠につながる。熟睡できない睡眠時無呼吸症候群(SAS)の人には夜間頻尿が多いとされる。こうした場合、橋本医師は睡眠障害の専門医に相談するよう勧めている。

 加えて暗い中、高齢者がトイレに行く途中で何かにつまずいて転んでしまえば骨折の危険性が高まる。介護が必要となった人の原因別調査(2019年国民生活基礎調査)では、「骨折・転倒」が「認知症」「脳卒中」に次いで3位を占めている。

 橋本医師は「夜間頻尿にはさまざまな疾患、危険が隠れている。生活に支障があれば治療が必要だ。基本的には水分の取り過ぎに気を付けて、夜間のアルコールやカフェインの摂取も控えるなど生活習慣の改善に取り組んでほしい」と話している。

 はしもと・ひであき 岡山大学医学部卒。国立岩国病院、広島市民病院、岡山大学医学部附属病院、川崎病院などを経て2007年から岡山中央病院勤務。12年から現職。日本泌尿器科学会専門医、日本泌尿器科学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年03月21日 更新)

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