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(1)膵癌の克服を目指して 天和会松田病院副理事長・外科 松田達雄

松田達雄氏

 膵癌(すいがん)と聞くと、不治の病といった印象を持たれるかもしれません。

 石原慎太郎さん、星野仙一さん、スティーブ・ジョブズさんなど多くの有名人が膵癌で亡くなられています。膵癌の死亡者数は年々増加しており、肺癌、大腸癌、胃癌についで、4番目に多くなっています。がん診療の進歩により生存率は伸びてきていますが、膵癌の5年生存率は約8%とまだ非常に予後が不良です。

 ■膵癌の症状は? どんな人がなりやすい?

 膵癌を克服するためには早期発見がもっとも大事です。しかし膵癌は進行するまで症状が出にくい癌です。膵癌に関連する症状としては、表に示した腹痛や背部痛などが挙げられており、そのような症状がある方は一度医療機関を受診することをお勧めします。

 膵癌を見つけるために症状もなく、全員が医療機関で膵癌を検査するにはあまり現実的ではないですが、リスクが高いとされる危険因子の表にあてはまる方、例えばご家族に膵癌にかかられた方がいる場合や、糖尿病と新規診断された方などは、一度腹部エコー検査やCT検査などの検査を受けることをお勧めします。

 ■膵癌の治療の進歩 最近の話題

 膵癌の治療としては(1)手術(2)抗癌剤(3)放射線治療が挙げられます。

 膵癌の根治のための治療の中心は手術であることは今も変わらず、切除が可能な膵癌の患者さんには手術を前提とした治療をお勧めします。しかし、切除後も再発率が高く、手術直後に再発することも少なくありませんでした。

 ここ数年、手術前に抗癌剤治療を行うことで治療成績が大きく向上しました。切除可能膵癌(手術によってがんの切除が可能と判断されるもの)に対して、すぐ手術をせずに手術前に抗癌剤治療(約6週間ゲムシタビン+S―1併用療法)を行ったのちに手術を行い、手術後6カ月間の内服抗癌剤(S―1)を飲んでいただきます。それにより、平均生存期間が26カ月から36カ月へと改善し、現在はガイドラインでも推奨されています。

 当院でも3年前から、手術前の抗癌剤治療を導入しております。手術が困難な方でも、有効な抗癌剤やその組み合わせが新規開発されており、癌の進行を遅らせることができ、場合によっては手術が可能になる方もいらっしゃいます。

 早期発見と診断、そして適切な治療導入が膵癌の治療には非常に重要です。治療も進歩しており、主治医の先生とよく相談し諦めず、検査治療を受けることをお勧めします。

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 天和会松田病院(086―422―3550)

 まつだ・たつお 慶應義塾大学医学部卒。慶應義塾大学病院、がん研有明病院で腹腔鏡手術の修練を積み、米国シカゴ大学への留学を経て2018年岡山大学病院に赴任。2年間岡山大学病院で肝胆膵外科診療を中心に従事し、20年より現職。消化器外科専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年04月04日 更新)

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