文字 

倉敷平成病院 倉敷ニューロモデュレーションセンター開設5年 「歩行障害外来」4月設置

牟礼英生医師

脳深部刺激療法(DBS)の手術=2021年7月(倉敷平成病院提供)

 倉敷平成病院(倉敷市老松町)が、パーキンソン病などによる手足の震えや、神経の障害による慢性的な痛みの治療に取り組む「倉敷ニューロモデュレーションセンター」を開設して5年が過ぎた。神経の異常な活動に対し、脳や脊髄に微弱な電気刺激を与えることで症状の改善を図る「脳深部刺激療法」や「脊髄刺激療法」などを展開している。4月には、全国的にも珍しい、特発性正常圧水頭症などの早期治療を目指す「歩行障害外来」をセンター内に設置した。

 パーキンソン病や本態性振戦、ジストニアと言った不随意運動症や、神経障害性の疼痛(とうつう)に対して根本的な治療法はいまだ確立されていない。電気的な信号によって機能する神経伝達の仕組みに着目したニューロモデュレーション(神経調整療法)は、神経科学や医用工学の進歩を背景に近年急速に発展した治療法だ。

 倉敷ニューロモデュレーションセンターは2017年4月に開設。岡山大学脳神経外科とも連携しながら運営し、21年度までの5年間で計528例の治療を実施した。

 ■脳深部刺激療法(DBS)

 手足が震え歩行に障害が出るパーキンソン病、手が震えて字が書けなくなったりする本態性振戦、意思とは関係なく体が動くジストニアなどが対象。根治はできないが、症状緩和や改善が見込めるという。脳深部にあるターゲットに電気刺激を与える電極を正確に挿入し、リード線でつないだ刺激発生装置を胸などに埋め込む。持続的に微弱な電気刺激を与えることにより、異常な活動を抑制して正常なレベルに戻していく。

 ■脊髄刺激療法(SCS)

 脊椎手術後症候群や複合性局所疼痛(とうつう)症候群、末梢動脈疾患といった難治性の慢性疼痛が対象。脊髄を包む硬膜の外側の硬膜外腔(がいくう)というスペースに電極を挿入し、リード線でつながった刺激発生装置を腹部に埋め込む。術後は、患者がリモコンで電気刺激の量や質などを変えて痛みを和らげる。センターによると、SCSを施した患者の7~8割で50%以上の鎮痛効果が得られているという。

 ■髄腔内バクロフェン療法(ITB)

 脳卒中や脊髄損傷などで四肢の筋肉が異常に緊張し、手足がこわばったり突っ張ったりする痙縮(けいしゅく)の症状を緩和する。痙縮を和らげる薬剤のバクロフェンが入ったポンプを腹部に埋め込み、細い管(カテーテル)を脊髄を包む硬膜の内側に差し込んで髄腔内にバクロフェンを直接投与する。リモコンでポンプを操作し、薬の投与量を調節する。

 ■歩行障害外来

 特発性正常圧水頭症を主要なターゲットとするが、脳神経内科や整形外科などと連携してパーキンソン病、パーキンソン症候群(多発性脳梗塞、薬剤性など)、神経変性疾患、脊柱管狭窄(きょうさく)症などにも幅広く対応する。

 特発性正常圧水頭症は脳脊髄液の循環が滞って脳内に過剰にたまり、脳を圧迫して歩行障害や認知症の症状を来す病気。外科手術によって脳からチューブを延ばして腹腔に脳脊髄液を流す「VPシャント」、腰椎から脊髄液を逃がす「LPシャント」の2種類の治療法がある。センターでは主にLPシャントに取り組んでいる。

特発性正常圧水頭症は治る病気
倉敷ニューロモデュレーションセンター長 牟礼英生医師


 倉敷ニューロモデュレーションセンターの牟礼英生センター長に「歩行障害外来」開設の理由を語ってもらった。

     ◇

 特発性正常圧水頭症は高齢者の水頭症で、治せる病気です。患者さんは国内に37万人以上、65歳以上の1~2%と推計され、まれな病気ではありません。ところが一般的な認知度は低く、治療を受けているのは10人に1人程度です。他の似たような病気と混同されたり、見過ごされている可能性が大きいのです。

 症状は「歩行障害」「認知症」「尿失禁」の三つで、最も多いのが「小刻み」「すり足」「がに股」を特徴とする歩行障害です。パーキンソン病とよく似ています。物忘れもあり、症状は徐々に進むので「年だからしようがない」と病院にも行かず放置されていることがあります。認知症の症状を示している患者さんの5~10%が特発性正常圧水頭症だと言われます。

 特発性正常圧水頭症は、脳脊髄液を抜いて、圧迫から脳を解放してやれば症状は大きく改善します。歩行障害は70~80%、認知機能障害は60~70%良くなると言われています。しかし、発症から時間がたつと脳が障害を受けてしまいます。ですから早く病気に気づいて受診し、治療につなげることが重要です。

 その受け皿として開設したのが「歩行障害外来」なのです。特発性正常圧水頭症の患者さんに早い時期から現れる「歩行障害」に着目しました。うまく歩けなくなった人の中に一定の割合で含まれている、治せる病気である特発性正常圧水頭症の患者さんの症状改善につなげたいとの思いからです。

 むれ・ひでお 徳島大学医学部卒業。米国ニューヨーク・ファインスタイン医学研究所研究員、徳島大学病院脳神経外科講師などを経て2020年10月から倉敷平成病院倉敷ニューロモデュレーションセンター長。医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本定位・機能神経外科学会技術認定医、日本脊髄外科学会認定医、日本脳卒中学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年04月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ