文字 

(2)胃食道静脈瘤の治療 天和会松田病院理事長・院長 松田忠和

松田忠和氏

 皆さんは門脈圧亢進(こうしん)症という病気をご存知でしょうか。肝臓の悪い人が、最後に大量に血を吐いて亡くなったというお話を聞いたことのある方もおられると思いますが、その原因が門脈圧亢進症からきた胃食道静脈瘤破裂であることが多いのです。

 門脈圧亢進症とは、肝臓に流入する血管の一つである門脈の圧が異常に上昇している状態を指します。肝臓には重要な血管が3本あります。それは、肝臓に流入する血管の肝動脈▽肝臓以外の腹腔(ふくくう)内臓器のすべての血流を肝臓という化学工場に送り込む静脈である門脈▽肝臓から流出する血管の肝静脈の3本です。なかでも門脈は肝臓に流入する血液の3分の2を運ぶもっとも重要な血管です。

 門脈圧亢進症をきたす主な病気には、ウイルス性肝炎やアルコールによって引き起こされた肝硬変、特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、バッドキアリ症候群、日本住血吸虫症などがあります。このうち肝硬変が原因としてはもっとも多く、門脈圧亢進症患者全体の約80%を占めるといわれています。

 私の施設では肝細胞癌(がん)の治療を多数行っておりますが、全症例の30%以上が胃食道静脈瘤を持っています。肝硬変になると血液が門脈を通り肝臓の類洞(るいどう)という細胞の隙間を通過して心臓へとうまく血液を戻すことができず(肝臓が固くなり類洞が狭くなって)門脈圧の上昇を起こし、血流がいわゆるバイパスルート(側副血行路)=図1=に流れ食道静脈瘤が発達します。

 さらに、脾(ひ)機能亢進症(脾臓は古くなった血球の破壊を担当しており、そこに血液が停滞することで、止血に必須の血小板が著明に減少する状態をこう呼びます)を発症したり、肝性脳症(肝臓でアンモニアなどの解毒がうまくいかず、脳に達することで意識障害がおこる)を呈することになります。門脈圧亢進症では、これ以外にも腹水・胸水貯留、腹膜炎などさまざまな症状が出現します。

 ここでは発症すると大量吐下血をきたし、短時間で生命を脅かす静脈瘤破裂の治療、すなわち、いかにして静脈瘤から出血させないか、さらに不幸にして出血した場合、いかにして制御するかの方法について述べたいと思います。

 (1)内視鏡的治療

 静脈瘤を輪ゴムで縛(しば)る結紮(けっさつ)術や硬化療法等とよばれる方法で、静脈瘤に対しての治療アプローチを行います。図2のごとく特に出血中の静脈瘤に対しては結紮術が確実性、手技の容易さで優れています。多くの場合静脈瘤出血は出血性ショック状態を伴っていることが多いので、早く確実な方法として結紮術は優れています。未破裂や破裂後出血予防のためには、直接静脈瘤を穿刺(せんし)して血管内に硬化剤(オレイン酸エタノラミン)を注入し、静脈瘤を血栓化して出血の予防をします。

 (2)カテーテル治療(IVR)

 食道静脈瘤へ流れ込む側副血行路をコイルで遮断し静脈瘤の消失を図ります。腹部に小切開を加え小腸の静脈から、または肝臓内の門脈を直接穿刺して側副血行路にアプローチしコイルを入れます=図3。また脾臓に流れ込む血流をおさえて門脈血流を減らし門脈圧を下げる方法として部分的脾動脈塞栓術(PSE)を行うこともあります。

 (3)手術療法

 Hassab手術といわれ、胃上部の2分の1と下部食道の血行を結紮切離し同時に脾臓摘出も行います。これは脾臓が無くなることで前述のとおり門脈へ流れ込む血流が減少し門脈圧が下がり、また血小板減少を抑える効果があります。

 以上述べたように門脈圧亢進症による胃食道静脈瘤からの出血は、肝硬変の3大合併症である肝細胞癌、肝不全、肝性脳症と並ぶ生命を脅かす病態ですが、適時適確に処置を行えば大きく生命予後を改善できます。肝臓病で治療中の方は静脈瘤の有無について、主治医の先生と相談されてはいかがでしょうか。

     ◇

 天和会松田病院(086―422―3550)

 まつだ・ただかず 岡山大学医学部卒業。水島第一病院勤務などを経て岡山大学医学部第一外科助手を務め、1985年から天和会松田病院に勤務。2004年に理事長・院長。09年に松岡良明賞受賞。日本肝臓学会肝臓専門医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医、日本消化器外科学会消化器外科指導医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年04月18日 更新)

ページトップへ

ページトップへ