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海外渡航者はワクチン接種を 笠岡第一病院予防接種センター 寺田喜平センター長に聞く

寺田喜平氏

腸チフスと日本脳炎のワクチン接種を受ける40代の男性。男性は5月、3年間の予定でタイに赴任するという。「現地では何があるか分からない。ワクチンを打てて安心」と話していた=3月22日、笠岡第一病院

 笠岡第一病院(笠岡市横島)の予防接種センターはビジネスなどでの海外渡航者向けに、怖い感染症から身を守ってもらおうとワクチン外来を開設している。日本での発生はまれだが海外で流行している病気は少なくない。コレラや腸チフスのワクチンは、国内では患者が少ないため流通しておらず、同病院が輸入し企業などのニーズに対応している。海外渡航は新型コロナウイルスの影響で大きく減ってはいるが、世界的なネットワークで活動する企業にとっては欠かせない。寺田喜平センター長に、世界と日本のワクチン事情などについて話を聞いた。

 ―今、国内では新型コロナウイルスによって、ワクチンへの注目度は高まっています。ただ、日本と他の国々ではワクチン接種をめぐって認識に差があるようです。

 世界ではさまざまな感染症が流行しています。とりわけ東南アジアやインド、中国、アフリカ、南米などの国々ではリスクが高く、時には生命に関わる事態も生じます。日本ではほとんど見られなくなった腸チフスやコレラ、狂犬病で亡くなったり、A型肝炎になる人もいます。狂犬病の致死率は100%です。

 以前、ネパールの医師が国際的な医学雑誌に複数の論文を投稿し、日本人に注意を呼び掛けたことがあります。「日本人がまた腸チフスになった」「日本人は渡航ワクチンを接種すべきだ」と訴えたのです。

 腸チフスは汚染された水や食物によって感染します。発熱や倦怠(けんたい)感で発症し、高熱や発疹を伴います。重大な症状として、腸から出血したり腸に穴が開いたりすることがあります。東南アジアやアフリカ、南米などで多く見られます。

 ネパールの医師は、日本人以外の外国人は90%がA型肝炎や腸チフスのワクチンを接種済みだが、日本人は95%がワクチン未接種で、90%が予防接種カード(予防接種証明書)の持参が無いと指摘しています。これほど日本と諸外国の意識は異なっているのです。

 ―接種履歴についても問題があると考えられていますね。

 日本人で、子どものころからどのような予防接種をし、またはしなかったかをきちんと把握している人はあまりいません。

 米国では、学校への編入学に際して接種歴を記載した文書の提出を求められる場合がほとんどです。私が数年前、研究のため英国のオックスフォード大学小児病院やジェンナー研究所に赴いたときも、ワクチンの接種歴を示すよう要求されました。

 こうした国々にとって、接種歴は重要な情報の一つです。母子手帳に記録が残っていますので、海外渡航の際には、きちんと準備して出国していただきたいと思います。

 ―2007年には国内で、ワクチン未接種の若者を中心に麻しん(はしか)が大流行しました。修学旅行でカナダを訪れた高校生が発症し、カナダの衛生当局から症状のない生徒も含めホテル待機を命じられ、帰国の飛行機への搭乗も拒否されました。

 この問題は、国内でワクチン接種を考える上での一つの転機になりました。

 海外渡航者に予防接種が必要な理由は二つあります。一つは、渡航先での生活を円滑に行うための個人防衛です。もう一つは、海外から国内への病気の持ち込みを防ぐためです。このことは新型コロナのことを考えれば、納得いただけるのではないかと思います。

 ただ、ワクチン接種が必要だと言っても、接種できる施設が近くになければとても不便です。コレラや腸チフスのワクチン、MMRワクチン(麻しん、風しん、おたふくかぜ混合)、A型・B型肝炎の混合ワクチンは、海外では広く安全に使われているものがありますが、国内では承認を得ていないので複雑な手続きを経て輸入しなければなりません。このため、取り扱っている医療機関は少ないのです。当院は2018年6月、地域のニーズに応えるため予防接種センターを開設したのです。

 ―海外に行く際には、どのようなワクチンを打っていけば良いのですか。

 渡航する地域の感染症リスク、衛生状態、滞在の期間や目的によって異なります。短期間の観光旅行ならば必要ない場合もあるでしょう。

 厚生労働省検疫所の「FORTH」というサイトがあります。海外での感染症発生状況や各国事情が掲載されています。まずはこのサイトを見てもらって、準備を進めていただければと思います。当センターでも相談を受け付けています。

「海外渡航」「帯状疱疹予防」「小児予防接種」 3外来とも予約制

 笠岡第一病院予防接種センターには「海外渡航ワクチン」「帯状疱疹(たいじょうほうしん)予防ワクチン」「小児予防接種」の三つの外来がある。いずれも予約制。

 ■海外渡航ワクチン外来

 各種ワクチン接種のほか接種証明書も発行する。新型コロナウイルス感染症に対しては、海外渡航のビジネスマン用にPCR検査陰性証明書も発行している。

 ■帯状疱疹予防ワクチン外来

 帯状疱疹は、子どものころにかかった水ぼうそうのウイルスが治った後も体内に潜み、ストレスや加齢などで免疫力が弱ると発症する。痛みを伴う赤い斑点と水ぶくれが帯状に生じ、夜眠れないほどの痛みがあったり、皮膚症状が治まっても痛みが長引くことがある。50代から発症率が高まり、80歳までに3人に1人が発症するとされる。寺田喜平センター長は「最近、帯状疱疹の発症を抑制する効果の非常に高いワクチンが登場した」と言う。ワクチン接種は50歳以上が対象。

 ■小児予防接種外来

 Hib(ヒブ)ワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンなどの「定期接種」と希望者が対象の「任意接種」を実施している。寺田センター長は、4月から国による積極勧奨が再開された子宮頸(けい)がん予防ワクチンについて「積極的に推進している日本以外の先進国では子宮頸がんの患者が大きく減少した」。新型コロナウイルス感染症に対する小児接種(5~11歳)については「基礎疾患があったり、おじいちゃんやおばあちゃん、赤ちゃんと一緒に暮らしている場合は接種を勧めます」と話している。

 てらだ・きへい 川崎医科大学卒業後、天理よろず相談所病院で研修。井原市民病院小児科医長、スタンフォード大学留学、のち川崎医科大学小児科学教授。ミネソタ大学、オックスフォード大学小児病院やジェンナー研究所でも研さん。2018年から現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年04月18日 更新)

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