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増える潰瘍性大腸炎、クローン病 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 垂水研一副院長

垂水研一副院長

 潰瘍性大腸炎、クローン病の患者が増えている。大腸や小腸などに原因不明の炎症が起き、炎症性腸疾患(IBD)と総称される国指定の難病だ。血便や下痢、腹痛などさまざまな症状が現れてQOL(生活の質)を大きく損ない、長期の療養が必要となるが、近年は新たな薬剤が次々登場するなど医療の進歩は著しい。チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(倉敷市林)の副院長で、IBDセンター長の垂水研一医師は「適切な治療により炎症を鎮めて症状を抑えられれば、通常の日常生活を送ることは可能だ」と言う。

■三つのタイプ

 垂水医師によると、潰瘍性大腸炎は、大腸の炎症によって粘膜が傷付き、ただれや潰瘍が生じる。その炎症は直腸からさかのぼっていくように、連続的に発生するのが特徴だ。炎症の起きる範囲によって三つのタイプに分けられ、直腸だけの「直腸炎型」、大腸の左側にとどまる「左側大腸炎型」、炎症が全体に広がる「全大腸炎型」がある。典型的な症状は血便、頻回の下痢、腹痛などだが、そのタイプや潰瘍による傷の深さなどによってさまざまなバリエーションが見られるという。

■症状さまざま

 クローン病は、潰瘍性大腸炎と違って炎症はあちらこちらに起きる。口から肛門まで消化管のいずれの部位でも炎症が生じる可能性はあるが、小腸と大腸に多く、小腸だけに病変が見られる「小腸型」、小腸と大腸の両方に出る「小腸・大腸型」、大腸に限られる「大腸型」に分類される。

 その症状は炎症の強さや部位などによってさまざまだ。頻回の下痢や腹痛などのほか「小腸に病変が強いと栄養障害を起こすことがある」と垂水医師。患者の半分ほどが肛門疾患の痔瘻(じろう)を伴い、炎症を繰り返す中で、腸管が狭く硬くなる「狭窄(きょうさく)」や、腸管に穴が開いて腸管と腸管、あるいは腸管と皮膚がつながったりする「瘻孔(ろうこう)」を形成することがあるという。

■「寛解」状態へ

 IBDの治療は薬物療法が中心となるが、重症化すると外科手術が必要な場合もある。完治は困難なため、治療の目的は、症状を抑えて日常生活が支障なく送れる「寛解」の状態に持ち込み(寛解導入療法)、再発を防いで寛解の状態を長く維持する(寛解維持療法)ことにある。

 代表的な治療薬が1950年代からあるというメサラジン製剤(5―ASA)で、寛解導入・維持のどちらでも使用できるという。

 今ある強い炎症や症状を抑える寛解導入薬として有効なのが、副腎皮質ホルモン剤であるステロイドだ。免疫を抑制して炎症を強力に抑えてくれる有効な薬だが、長期になると副作用が生じるので寛解維持には適さない。免疫調節剤はステロイドとは異なるアプローチで炎症を鎮める。

 2000年代に入ると生物学的製剤が登場し、「IBD治療に転機をもたらした」と垂水医師は指摘する。IBDを発症した腸管ではリンパ球などの免疫細胞が集まり、大量の炎症性サイトカインが作られている。生物学的製剤には「サイトカインを攻撃したり、リンパ球が集まらないようにする働きがある。寛解導入と維持の両方に使え、これまでの治療薬を越えた優れた効果が認められる。コントロールが難しいIBDの治療を大きく前進させた」と評価する。

■年齢の幅拡大

 垂水医師はIBDの研究・治療に携わって20年以上になる。医療の進歩によって、寛解の状態を維持して通常の社会生活が送れる患者は増えた一方で、潰瘍性大腸炎は高齢での発症が見られるなど以前に比べ患者の年齢の幅が広がったとも感じている。クローン病も含めて患者は年々増えている。チクバ外科・胃腸科・肛門科病院は現在、潰瘍性大腸炎で約420人、クローン病は160~170人の患者を診療している。

 「これだけ患者が増えてくると、大学病院や当院のような専門病院だけで対応できる時代ではなくなってきている。一般の診療所の先生とも連携して、患者の療養生活や社会生活を地域で支える形を目指さなくてはいけない」と言う。

 たるみ・けんいち 川崎医科大学卒業。2015年よりチクバ外科・胃腸科・肛門科病院勤務。医学博士。日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化管学会胃腸科指導医、日本内科学会総合内科専門医。

免疫機能の異常で発症 治療法は未確立

 日本消化器病学会の資料などによると、IBDの原因は不明だが、生活環境や食生活、遺伝的な素因、腸内細菌の変化など、さまざまな要因が関わって、本来は外敵から身を守るために働く免疫機能に異常が起こって発症する。

 病状が悪化する活動期と、落ち着く寛解期を繰り返すのもこの病気の特徴だ。欧州や北米など衛生状態の整った先進諸国で、10代後半から30代で発症するケースが多い。国内では1990年代辺りから患者は急激に増えたという。

 治療法は確立しておらず、長期の療養を必要とする潰瘍性大腸炎とクローン病は国の指定難病となっている。難病医療法の重症度分類で一定以上の症状があり、医療費助成の受給資格を得ている患者は2020年度でそれぞれ約14万人と約4万7000人。比較的症状の軽い患者を含めると潰瘍性大腸炎で20万人以上、クローン病は7万人以上ともいわれている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年05月16日 更新)

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