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知っておきたいもう一つの認知症 ~レビー小体型認知症~

内科部長
和田 健二
1992年、鳥取大学医学部医学科卒業。同大学医学部付属病院講師を経て、2019年から川崎医科大学認知症学主任教授、川崎医科大学総合医療センター内科部長を務める。専門は認知症、神経変性疾患、臨床疫学研究。日本認知症学会(理事、専門医、指導医)、日本内科学会(中国支部評議員、認定内科医、総合内科専門医、指導医)、日本神経学会(認知症疾患治療ガイドライン改訂委員会委員、専門医、指導医)

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)内科部長で、同大学認知症学教室の和田健二主任教授が「知っておきたいもう一つの認知症~レビー小体型認知症~」と題して、症状や治療法、受診のタイミングなどを詳しく解説する。

インタビュー動画

 ―認知症とはどんな症状のことを指すのか。

 脳の疾患によって、記憶や言語といった認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障を来すようになった「状態」を言う。原因疾患はいろいろあるが、65歳以上で発症した老年期の認知症の中では、アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで、今回紹介するレビー小体型認知症は3番目に多い疾患。日常診療において遭遇する機会が多い。

 ―レビー小体とは?

 神経細胞の中のα-シヌクレインという蛋白(たんぱく)の異常な塊(かたまり)で、HE染色すると顕微鏡で赤い丸い封入体を見ることができる。これを発見者の名前にちなんで「レビー小体」と言い、当初は中脳で発見されてパーキンソン病と関連付けられていた。その後、大脳皮質の神経細胞にも「レビー小体」が出現することが分かり、神経病理学的に「レビー小体」の出現を特徴とする認知症を「レビー小体型認知症」と呼ぶようになった。

 ―レビー小体型認知症の症状は?

 アルツハイマー型認知症のような記憶障害(いわゆるもの忘れ)が、初期には目立たない場合がある。注意力や明晰(めいせき)さが悪くなるため、ボーっとしていたり、受け答えが曖昧になったりする。特徴的なのは、状態の良い時と悪い時の差やその変動が著しいことである。実際にはいないのに「動物・虫・人が見える」と訴えるような幻視や、誰かがいるような気配すると感じることもある。動作は緩慢となり、歩行が困難になったり、転倒が増えたりするパーキンソニズムという運動症状がみられることもある。

 ―ほかに気を付けるべき症状は?

 自律神経の障害が出ることがある。立ち上がると急激に血圧が低下する起立性低血圧がみられる。立ちくらみを自覚し、症状が強いと失神する場合がある。ひどい便秘、排尿障害、寝汗など汗の量が多くなる自律神経障害も出る。また、匂いが分かりづらい嗅覚低下、気分が落ち込むうつ気分、日中に眠っていることが多くなる日中過眠も見られる。

 人物、場所、起こっている事実などを間違って認識し思い込んでしまう妄想の症状もある。例えば、夫をよく似ているけど、偽物と決めつけるような「カプグラ症候群」、自分の家がもう一つあるような言動などが見られる。レビー小体型認知症の方は、環境変化や入院などを契機にせん妄状態になりやすく、急激に混乱することが多い。また、治療薬剤の中でも特に、幻視や妄想といった症状を緩和させる抗精神病薬を使用すると、ごく少量の薬剤でも副作用が目立つことがあり、治療も慎重に行わなければならない。

 ―レビー小体型認知症の治療方針は?

 認知症の治療には、薬物治療と薬物によらない非薬物治療がある。これら二つを組み合わせて、認知症の方や家族介護者の生活の質(QOL)向上を目指す。非薬物治療は認知機能訓練、運動療法、音楽療法、回想法などさまざまあるが、デイケアやデイサービスなどの利用を積極的に推奨している。また、レビー小体型認知症のさまざまな症状についても十分に理解を促し、それぞれの症状に対応できるよう支援を行う。

 症状の変動が著しい場合には、以下のように指導する。
・最も悪い時をケア基準に対応する
・混乱が激しいときは、しばらく距離をおく
・変動があること家族に理解してもらう
・危険なものはしまっておく
・夕暮れ時は悪くなりがちなので、夕食の準備は昼頃に済ます。そして、夕暮れ時は本人とゆっくり過ごす

 幻視に対しては以下のように指導する。
・いきなり否定するのではなく、一旦は訴えを聞き安心感を与える
・不安を取り除くことを第一に、ゆっくり話を聞く
・おびえているなら、一緒に払うマネなどもよい
・手を握って落ち着かせる
・訴えているものが実際にそこにいることを前提に対応
・夕方から夜間であれば、早めに電気をつける
・ハンガーに掛けた洋服が人に見えるならば、本人に見えるところに掛けない

 起立性低血圧に対しては、以下のように指導する。
・脱水やα1ブロッカー(高血圧や前立腺肥大症の治療)の誘因に注意
・ゆっくりと立ち上がる
・食後に失神がある人はなるべく安静
・水分、塩分摂取により起立性低血圧を予防
・頭部挙上による臥位性高血圧の予防
・腹部内臓と腸管の静脈、下肢静脈を腹帯、弾性ストッキングなどで圧迫

 ―薬物治療はどのようなものを行うのか?

 認知機能に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬が推奨されている。レビー小体型認知症では、アルツハイマー型認知症と同様に、脳内のアセチルコリンという神経伝達物質が減少し、症状発現に関連しているため、脳内のアセチルコリン濃度を上げて、認知症症状を緩和させることを目的に使用する。

 幻視に対しても、コリンエステラーゼ阻害薬が効果的である。抑肝散という漢方薬も効果がみられる。妄想に対しては抑肝散、興奮などがみられる場合にはメマンチンという抗認知症薬が選択される場合がある。ただし、これらの治療を行っても幻視や妄想症状が強く持続する場合には、非定型精神病薬が使用される場合がある。ただし、副作用が強くみられる場合あるので、使用の是非は慎重に行う。

 レム睡眠行動異常症(悪夢)に対しては、クロナゼパムが推奨される。また、ラメルテオンなどの睡眠薬も効果的な場合がある。

 運動症状であるパーキンソニズムに対しては、レボドパやゾニサミドなどのパーキンソン病治療薬が用いられる。

 ―薬物治療の注意点は?

 レビー小体型認知症の症状はさまざまで、治療標的となる症状は患者ごとに異なる。本人や家族介護者と相談しながら、標的となる症状を定め、薬剤治療を開始する。レビー小体型認知症は薬剤に対する過敏性が認められる疾患であり、少量の抗精神病薬の使用でも、急激に症状の悪化がみられることがある。また、抗精神病薬以外の薬剤でも同様に悪化がみられる場合があるので、薬物治療薬開始の際には、ごく少量から開始して、症状改善や副作用を確認しながら時間をかけてゆっくりと漸増していく。レビー小体病の以外の治療薬剤変更時の症状変化について観察が必要となる

 ―レビー小体型認知症と思ったらどこを受診すればよいか?

 レビー小体型認知症は頻度の高い疾患である。適切な治療を導入することにより、症状の緩和や進行抑制につながるため、適切なタイミングで診断・治療導入が重要となる。レビー小体型認知症かなと思う症状があれば、まずは、かかりつけ医に相談し、専門外来として脳神経内科、精神科、心療科などが開設している「もの忘れ外来」で専門医療を受けることできる。川崎医科大総合医療センターにも「もの忘れ外来」(火、金曜)があるので、気になる方は受診してほしい(要紹介状)。




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(2022年05月19日 更新)

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