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(3)膵臓がんを克服する―その1「診断」 岡山赤十字病院消化器内科医長兼胆膵内科医長 秋元 悠

秋元 悠氏

 本邦において、膵(すい)臓がんと診断を受ける患者さんは年々増加してきています。しかしながら、膵臓がんの治療成績は主な臓器のがんの中で最も悪く、全国のがん診療拠点病院の統計(2013~14年)でも治療を受けてから5年後もお元気でいられる患者さんは約13%と非常に厳しい結果となっています。

 一方で、早期発見に不可欠な画像診断能の向上、手術技術や周術期管理の進歩、近年登場した有効な抗がん剤と手術を組み合わせる集学的治療の進歩により、この10年で最も治療成績が改善している病気の一つでもあります。

 岡山赤十字病院の消化器内科(胆膵内科)・消化器外科(肝胆膵外科)の専門医が膵臓がんの克服へむけて診断から治療、当院における今後の取り組みについて今回より3回にわたり説明します。

 【膵臓がんの診断】

 膵臓は沈黙の臓器と言われ、なかなか症状が出ず症状が出たときには、かなり進行していることが多い病気でしたが、近年は画像診断の進歩により早期に診断ができる膵臓がんの症例も増えてきています。

 腫瘍マーカーは、早期では陽性率が低く腫瘍マーカーのみで早期の膵臓がんを発見していくのは困難です。そのため、膵臓がん発症のリスクが高い方(膵がんの家族歴、糖尿病、肥満、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍=IPMN、喫煙歴がある方)の絞り込みと下記のような画像検査が重要となってきます。

 腹部超音波検査は、膵臓は背中側の深いところにあるため全体がよくみえるかどうかは個人差があります。また小さな膵がんの検出は難しいことが多いですが、膵管の拡張など膵がんによって来す所見(間接所見)がきっかけで早期膵がんが見つかることも多々あります。

 造影CTは、どこまでがんが広がっているかを調べる(範囲診断)のに有用な検査です。1センチ以下の小膵がんの検出能は低く腹部超音波検査と同様、間接所見を見落とさないことが重要になります。

 MRIは、膵管の変化を見つけるのに有用な検査です。膵がんは早期には腫瘤(しゅりゅう)を形成せず膵管のみに変化を来すことが多いため早期発見の手がかりとなりえます。

 超音波内視鏡検査は、上記検査の中で最も早期の膵がんを診断するのに有用な画像検査と言われています。先端に超音波が付いた胃カメラを用いて胃・十二指腸から膵臓を見ることができるため、より小さな腫瘤も見つけることができます=図1a。また、超音波で確認しながら腫瘤に針を刺して細胞を調べる検査もできます=図1b

 ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)は、膵管に直接処置具を挿入し膵液を採取する検査です。腫瘤をつくらず膵管の変化がある場合に早期膵がんを診断するのに有用な検査です。チューブの先端を膵管内に置いて鼻から出るように留置して繰り返し膵液を採取することで診断の精度が上がります=図2

 上記のように早期の膵臓がんを見つけるには、リスクの高い方の絞り込みと超音波内視鏡検査が重要になります。当院では2種類の超音波内視鏡を常備し早期膵がんを見つけるべく検査を行っております。また超音波検査やCT、MRIにより、腫瘍そのものがみえなくても腫瘍により反映される間接所見が見つかり、膵がんを見つけるきっかけになることがあるため、各種検査を駆使し早期に膵がんを見つけるべく日々診療を行っております。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 あきもと・ゆたか 愛媛大学医学部、岡山大学大学院卒。岡山赤十字病院で初期研修。倉敷中央病院、広島市民病院、岡山大学病院、岩国医療センターを経て2020年より岡山赤十字病院勤務。日本内科学会総合内科専門医・認定医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医、日本胆道学会指導医、日本膵臓学会指導医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年06月06日 更新)

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