文字 

第2回「耳」 川崎医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学 濵本真一講師

濵本真一講師

 耳の病気になると音が聞こえにくくなるし、めまいがして頭がクラクラすることがある。耳は聴覚だけでなく平衡感覚も担っているからだ。その構造はとても精緻で働きは巧妙だ。川崎学園特別講義「ヒトのからだを知ろう」の第2回のテーマは「耳」。川崎医科大学耳鼻咽喉・頭頸(けい)部外科学の濵本真一講師に解説してもらった。

■仕組みと働き

 耳は音を聞く器官であると同時に、平衡感覚をつかさどる器官です。外耳、中耳、内耳に分かれ、異なる役割を担っています。

 【外耳と中耳】

 外耳は耳介(じかい)と外耳道で成り立っています。耳介は空気の振動である音波を集めたり、音のする方向の特定に役立ったりします。集められた音波は、長さ2~3センチの外耳道を通って鼓膜へと届けられます。

 中耳には薄い鼓膜と、関節でつながった三つの耳小骨(じしょうこつ)、耳管があります。鼓膜で受け止めた空気の振動はツチ骨からキヌタ骨、アブミ骨へと伝わる中で、てこの原理によって増幅されて内耳に伝わります。耳小骨はひだ状の粘膜や筋肉が支えていて、振動が大きすぎたりすると動きを抑制します。耳管は鼻や喉の奥とつながり、中耳と外気の気圧を同じにしています。

 【内耳】

 内耳には聴覚をつかさどる蝸牛(かぎゅう)と、平衡感覚を担う前庭系で構成されています。内部はいずれもリンパ液で満たされ、内耳に伝わった音は液体の振動となって感覚細胞を刺激して電気信号に変換され、聴神経を介して脳に伝わります。

 【蝸牛】

 カタツムリのような形の蝸牛は2回転半しています。内部は3層構造(前庭階、蝸牛管、鼓室階)で、アブミ骨から入ってきた音波はぐるりと回って前庭階から鼓室階に伝わり、最後は中耳に抜けていきます。

 前庭階と鼓室階に挟まれた蝸牛管には、4列の有毛細胞(感覚細胞)が奥までずらりと並んでいます。内側の1列が内有毛細胞(約4千個)、外側の3列は外有毛細胞(約1万2千個)で、各細胞が特定の高さ(周波数)の音波に対応しています。蝸牛の入り口付近は高い音、奥に進むにつれて低い音に反応し、およそ2万ヘルツから20ヘルツまでの周波数を聞き分けます。

 内有毛細胞は音波の刺激を受けてその情報を電気信号に変換し、脳の聴覚中枢に伝達します。一方、外有毛細胞には脳からの刺激を受けて働く遠心性神経がつながっています。内有毛細胞が受容した微弱な音刺激を増幅したり、強すぎる音は抑制したりして音の強弱を調節し、内有毛細胞の感度を上げることに役立っています。

 パーティー会場や電車の中のように、周囲にたくさんの音がある環境でも特定の人の言葉を聞き分けられるのは、脳が注意を振り向ける音をその時の状況に応じて切り替えているからです。視覚など他の感覚情報も、音の知覚・認知に影響を与えています。

 【前庭系】

 前庭系には回転運動を感じる半規管と、体の傾きや直線的な運動を感じる耳石器があります。

 三つの半規管は互いに垂直になるように配置され、半規管の内部にはゼラチン状の物質に包まれた有毛細胞があります。回転運動に伴って動く半規管の中のリンパ液の流れを有毛細胞は感知し、運動の状況を脳に教えます。

 耳石器には有毛細胞が集まったところ(平衡斑)があり、その上にはたくさんの耳石(炭酸カルシウム)が載っています。頭が傾いたりすると耳石が動いて有毛細胞を刺激します。

 こうした半規管、耳石器の働きに加え、筋肉や関節、視覚などの情報を統合して私たちは体の平衡感覚を保っています。

■難聴を起こす病気

 音を伝える長い経路のどこかに障害があれば難聴が生じます。どの部位が障害されているかによって症状は異なります。

 難聴は大きく「伝音難聴」と「感音難聴」に分けられます。伝音難聴は外耳から中耳にかけての障害です。何らかの原因で鼓膜に穴が開く鼓膜穿孔(せんこう)や中耳炎、耳小骨連鎖の異常などで音の振動がうまく伝わらないことなどで生じます。

 感音難聴は内耳や神経の障害です。音の振動を電気信号にうまく変換できなかったり、変換できても聴神経が電気信号を脳へ伝達できなかったりすることで生じます。突発性難聴や加齢性難聴、聴神経腫瘍などがあります。

 【中耳炎】

 難聴を起こす疾患として多いのが中耳炎です。最も頻度が高い急性中耳炎では、耳管から入り込んだ細菌やウイルスが炎症を引き起こします。激しい痛みがあり聞こえが悪くなり、耳が詰まるような感じがします。小児に急性中耳炎が多いのは、鼻の奥から中耳につながっている耳管がほぼ水平で、鼻をすすったときに鼻汁が中耳に入りやすいからです。成長する過程で角度が付いて鼻汁は入りにくくなります。治療は抗菌薬の内服のほか、必要に応じて鼓膜を切開して中の膿(うみ)を出します。

 急性中耳炎の後などに鼓膜の内側に貯留液が残り、その結果、鼓膜が動きにくく聞こえが悪くなるのが滲出性(しんしゅつせい)中耳炎です。小児では鼻の奥にあるアデノイドの増殖により、耳管が閉塞されて生じることが多いです。痛みがないので見過ごすことがあり、注意が必要です。症状が長引く場合は鼓膜を切開して滲出液を除去します。症状を繰り返すときには鼓膜にチューブを入れ、滲出液を排出する手術をすることもあります。

 急性中耳炎や滲出性中耳炎は治らないと慢性中耳炎などに移行し、手術が必要になることがあります。

■めまいを起こす病気

 めまいには天井がぐるぐる回るような回転性めまい、頭がふらふらする動揺性めまい、また眼の前が真っ暗になる立ちくらみなどがあります。

 【良性発作性頭位めまい症】

 めまいを起こす疾患の中で一番多いのが良性発作性頭位めまい症です。寝返りや起床時、ベッドに横になったときなど、頭を動かしたり頭が特定の位置に来ると回転性めまいが誘発されます。めまいは数秒から数十秒で治まります。内耳にある耳石器の一部の耳石が剥がれて半規管の中を浮遊し、頭の動きとともに移動するため、めまいが生じます。自然に軽快することが多いですが、症状が長引く場合には、剥がれた耳石を元の位置に戻す耳石置換法を行うこともあります。

 【メニエール病】

 メニエール病は、難聴や耳鳴り、耳のつまり感などの聴覚症状を伴うめまいを繰り返す疾患です。内耳のリンパ液が過剰な状態(内リンパ水腫)になって症状が引き起こされます。発症にはストレスが関与していると考えられています。治療は、生活指導と内リンパ水腫を軽減させるための薬などを使用します。

 【中枢性めまい】

 気を付けないといけないめまいです。意識障害やろれつが回らないなど言葉の障害、運動まひ、知覚まひ、激しい頭痛などを伴う場合は脳疾患の可能性を考慮した検査が必要です。主な原因として脳卒中(脳出血や脳梗塞)、脳腫瘍などがあります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年06月20日 更新)

ページトップへ

ページトップへ