文字 

医療連携へ模索続く岡山県境 共通課題は医師不足

多くの患者が訪れる福山市医師会の夜間小児診療所。同市でも小児科医は不足気味だ

 岡山と広島、兵庫の両県境にまたがる生活圏域で、医療体制充実に向けた連携の試みが続く。共通の課題は医師不足。西の井笠、福山地域では救急体制などの再構築へ踏み出したが、東の備前、赤穂市など国の「定住自立圏」による協力は進んでいないのが実情だ。

 井笠、福山地域は明治初期、「小田県」に属し、生活の結び付きは今も強い。

 笠岡市西部の城見台地区。福山市中心部で買い物をする住民が多く、子どもが2人いるパートの米倉麻衣さん(30)も同様だ。かかりつけ医は笠岡だが、小児科診療が手薄な夜間は「福山に行くことも多い」という。

 岡山県内五つの2次医療圏域で、井笠は倉敷市などと同じ「県南西部」に含まれる。小児科医数は94人(2010年末)と他圏域より恵まれているが、80%以上は倉敷市。井笠は7人しかおらず、「夜間や休日の診療に対応できない」(武田恒雄・笠岡医師会長)中、患者は福山の病院に駆け込んでいる。

 救急搬送も当直の小児科、外科医が多い福山に頼りがち。年間数百件が暗黙のうちに受け入れられていた。

 しかし、福山の2次救急病院で「井笠からの軽症者搬送が目立った」(医療関係者)ことから、08年に福山側が救急当番病院の情報を井笠の消防に伝えるのを中止。円滑な搬送が難しい事態に陥った。

■  □

 転機は10年の5月末。「関係修復」の要望を受けた岡山県の石井正弘知事が中国地方知事会で広島側に依頼、両県の事務レベル協議が始まった。

 今年1月には「広島・岡山県境を越えた医療広域連携会議」が発足。福山市での初会合で、井笠、福山の両地域を一体の医療圏域とみなし、小児救急など3部会で対策を講じることを申し合わせた。

 大都市への偏在などにより、福山でも医師不足は深刻。月に7〜10日、当番病院がない「空白日」があるなど、小児2次救急体制は疲弊している。森近茂・福山市医師会長は「福山から倉敷への搬送もあり、岡山側とは持ちつ持たれつの間柄。より良い関係構築には双方の努力が必要」とする。

 福山市医師会は、軽症の小児を午後7時から11時まで診る「夜間小児診療所」に続き、成人向けの夜間診療所を来春開く予定。内科医、外科医を置く方針で「参加医師が多いほど助かる」(森近会長)ため、井原医師会は昨年、医師の派遣を決定。笠岡医師会も派遣可能な人材の把握を進めるなど“一つの医療圏域”への歩みが始まった。

□  ■

 一方、国の「定住自立圏」の先行実施団体として、県境をまたぐ圏域の“共生”を09年から模索するのが、備前市と兵庫県赤穂市、上郡町だ。

 公共交通、教育分野などでは連携が進むが、勤務医の不足解消へ期待された医師の派遣は「大学の系列が岡山と兵庫の病院間で異なる」(備前市)ため、前進していない。

 「顔の見える連携」づくりへ、医療技術者対象の研修会を10年度に開始。11年度にかけて圏域内の医療課題などを学んだ。今後も継続し、協力を深める意向だ。

 東西両圏域の共通課題が「医師不足」であることから、岡山県は2月に設立した「県地域医療支援センター」で医師確保に努める考え。同時に、地域の医師を疲弊させない方策が求められており、県医療推進課は「日中にかかりつけ医に診てもらうなど、住民の適切な受診が重要。セミナーなどで周知を図りたい」とする。

 広島・岡山県境を越えた医療広域連携会議 岡山、広島県の県境周辺の医療関係者らで構成、井笠、福山両地域の救急医療体制充実などを目指す。会長が森近茂・福山市医師会長、副会長が武田恒雄・笠岡医師会長。専門的な議論を深めるため、小児救急医療体制▽救急医療・メディカルコントロール体制▽周産期医療体制―の3検討部会を設置。2012年秋ごろまでにさまざまな対策や方向性を固める。

 定住自立圏 人口4万人超の市を「中心市」とし、周辺市町村と連携して活性化策を進める。関係自治体が協定を結んで「共生ビジョン」をつくれば、国の財政支援の対象になる。備前市を中心市に、兵庫県赤穂市、上郡町でつくる「東備西播定住自立圏」は産業振興、交流、公共交通などの分野で連携事業を推進。圏域内での観光ルート設定やバス運行などに取り組む。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月14日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ