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(1)身体と心に優しいがん治療を目指して 岡山市立市民病院低侵襲手術センター・外科主任医長 橋田真輔

橋田真輔氏

 岡山市立市民病院の大きな特徴のひとつは『断らない救急医療』をモットーに掲げ、岡山ER(救急治療室)を運営していることですが、実は救急だけでなくがん診療にも力を入れて取り組んでいます。特に、がんの手術件数は年々増加しています。

 がんの治療は、決して楽なものではありません。手術の痛みや後遺症、抗がん剤の副作用など、さまざまな患者さんの負担を軽減するため、当院では『身体と心に優しい治療』の提供を目的に「低侵襲手術センター」を設置しています。

 センターでは、医師・看護師だけでなく、薬剤師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・歯科衛生士・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のスタッフが連携し、入院前から退院後まで、患者さんの身体的・心理的・経済的な負担を減らす取り組みを行っています。

 手術は、可能な限り腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いて行っています。腹腔鏡手術とは、体に小さな穴をあけ、そこからカメラと鉗子(かんし)を入れて手術を行う方法で、従来の大きくおなかを切る開腹手術に比べ、傷が小さくなるため手術後の痛みが小さく、体力の回復が早いというメリットがあります。

 一方で腹腔鏡手術は熟練を要する技術であるため、例えば私の専門の胃がんで言えば、これまで進行がんに対する腹腔鏡手術は推奨されていませんでした(胃癌(がん)治療ガイドライン第6版)。しかし本年3月に、腹腔鏡下胃切除術研究会というグループによって行われた試験の結果、「熟練した外科医(技術認定医)によって行われた場合、進行胃癌への腹腔鏡手術の成績は従来法に劣らない」と報告されました。熟練した腹腔鏡技術の重要性はますます高まっていると言えます。

 当院では経験を積んだ医師が手術の質と安全性に配慮した治療を心掛けています。全国での胃手術(幽門側胃切除)での腹腔鏡手術の割合は51・9%(消化器外科学会報告=2019年)に対し、当院(21年)では94・7%でした。全国的に見ても腹腔鏡手術に注力している病院です。

 手術で取り切れない、あるいは再発したがんに対する抗がん剤治療も積極的に行っています。最近は分子標的治療薬や免疫治療薬といった、体への負担が比較的少ない抗がん剤も開発されており、患者さんの体力やご希望に応じて抗がん剤の種類や量を調節し、治療効果とのバランスをとっています。

 教科書通りのがん治療だけでなく、患者さんの身体の状態や思いにできるだけ寄り添い、「身体と心に優しい治療」を行うことで、地域の皆さまのお力になっていければと考えています。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 はしだ・しんすけ 徳島大学医学部卒。姫路聖マリア病院、岡山赤十字病院、岡山大学大学院(がん研究)を経て、香川県立中央病院で上部消化管のがん診療を中心に診療に従事。2022年4月から現職。医学博士。日本消化器外科学会がん外科治療認定医、内視鏡外科学会技術認定医(胃)など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年07月04日 更新)

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