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第3回「皮膚」 川崎医科大学皮膚科学 杉山聖子講師

 私たち人間は、口や鼻の中、目などを除いて皮膚を介して外界と接している。普段、その存在を気にすることは少ないが、実は物理的な衝撃や健康に影響を与えかねない微生物などから体を守ったり、体温の調節にも一役買ったりと大きな役割を担っている。ただ、蚊に刺されたり、何かにかぶれたりすると赤く腫れてとってもかゆいし、皮膚のバリアー機能が突破されて異物が侵入すると、いわゆるアレルギー反応を示したりする。川崎学園特別講義「ヒトのからだを知ろう」第3回のテーマは「皮膚」。川崎医科大学皮膚科学の杉山聖子講師に話を聞いた。

 ■仕組みと働き

 皮膚は、ひとの体を覆っている人間最大の臓器です。その重さは体重の約16%を占めます。体の水分を守る、暑くなったら汗をかいて体温を下げる、紫外線や外界の微生物から体を保護するといった、さまざまな機能を持っています。触覚や痛覚、温覚などの感覚を捉える働きもあります。

 まずは構造についてお話ししましょう。

 【表皮】

 皮膚は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層構造になっています。

 表面にある「表皮」の厚さは約0・2ミリです。表皮角化細胞(ケラチノサイト)によって主に構成されています。表皮角化細胞はお互いにしっかり接着し、外界からの物理的な刺激から体を守っています。

 表皮は一番下の層からどんどん上の層に向かって移行し、最後は角質、いわゆる「垢(あか)」になって皮膚の表面で脱落します。一番下の層から一番上の層にいくまでには1カ月半ほどかかります。表皮の細胞が新しい細胞に交代していく、この期間をターンオーバー時間といいます。

 垢になる直前の層では天然保湿因子をたくさん含んでいて、皮膚を乾燥しにくくして、潤いを保ってくれています。

 表皮には表皮角化細胞だけではなく、メラノサイト(紫外線にあたってメラニン色素をつくる)、ランゲルハンス細胞(外界からの微生物に反応する免疫担当)、メルケル細胞(知覚担当)が存在し、それぞれ大切な役割があります。

 【真皮】

 次の層は「真皮」です。皮膚が層に分かれているといっても、表皮と真皮は強く結合しています。表皮はスポンジのようにでこぼこして、真皮とがっちり組み合い、外界からの刺激に負けない強固な構造を作っています。

 真皮は膠原(こうげん)線維(コラーゲン)や弾性線維といった繊維性組織が多くを占め、皮膚の構造を支え、肌に張りや弾力をもたらしています。さまざまな免疫担当細胞も存在していて、細菌や真菌の侵入があると速やかに反応します。

 真皮の中には血管やリンパ管、神経が張り巡らされています。心臓からどんどん末梢に向かい枝分かれした血管はとても細くなり(毛細血管)、真皮のところで網目状にネットワークを形成し、皮膚全体に栄養や酸素を届けています。

 【皮下組織】

 最下層は「皮下組織」です。脂肪の貯蔵所でもあり、外界に対しては柔らかく衝撃を吸収するクッションのような役目があります。体温を維持する重要な働きもしています。

 皮下組織から表皮にかけては毛が貫いています。毛は一定の周期で発育しており、頭の髪の毛は数年間成長して脱落します。

 脂腺や汗腺もあり、皮脂や汗を出し、皮層の保湿に役立っています。

 ■主な病気

 皮膚の病気はたくさんあります。ここではじんましん、アトピー性皮膚炎、この時季に増えるマダニの被害についてお話しします。

 【じんましん】

 皮膚の一部が突然に赤くくっきりと盛り上がり(膨疹(ぼうしん))、しばらくすると消えてしまう病気です。個々の皮疹(ひしん)(ブツブツや赤み)は数十分から数時間以内に消えるのが普通ですが、中には半日から1日くらい続くものもあります。

 膨疹のできる理由は、真皮内の浮腫(むくみ)です。真皮に存在する免疫担当細胞の一種であるマスト細胞からヒスタミンという化学伝達物質が放出されると、皮膚の血管から血液成分のうち血漿(けっしょう)といわれる液体成分が漏れ出て浮腫を生じます。血管も拡張するので発疹は赤くみえます。

 じんましんはアレルギー性と非アレルギー性に分けられます。よく知られているのは「I型アレルギー反応(即時型)」によるじんましんです。マスト細胞がIgE分子を介して原因となる物質と出合うとマスト細胞が活性化してヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されます。ヒスタミンは神経を刺激し、かゆみなどを誘発します。

 治療は、原因物質がある場合はそれを取り除くことが一番です。薬による治療では、ヒスタミンの作用を抑える薬を使います。漢方薬や免疫調整薬を補助的に使うこともあります。

 【アトピー性皮膚炎】

 アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。子どもの約10%にみられると言われています。

 病態の解明は進んできています。アトピー性皮膚炎には、天然保湿因子の減少による皮膚のバリア機能の低下、強いかゆみ、Th2細胞によるTh2型免疫応答の亢進(こうしん)が絡み合っていると考えられています。

 アトピー性皮膚炎において、中心的な役割を担うリンパ球にT細胞があります。T細胞はその機能によって幾つにも分類されます。その一つで、花粉やハウスダストなどのアレルゲンに対しても免疫反応を誘導してしまうTh2細胞が、アトピー性皮膚炎の患者さんでは過剰に活性化していることが分かっています。

 マスト細胞から放出されるヒスタミンの影響だけではなく、Th2型反応といわれる免疫状態により、かゆみが増強します。症状に応じて、スキンケア、薬物療法、皮膚の刺激を避ける生活指導を行っています。

 【マダニ】

 今の季節、気を付けなければならないのがマダニです。ウイルスを持つマダニによる「重症熱性血小板減少症候群」、リケッチアという病原体を持つマダニによる「日本紅斑熱」などの病気になることがあるからです。

 重症熱性血小板減少症候群は発熱やおう吐、腹痛、下痢などの症状が出ます。岡山県では2020年に7人、21年に6人の患者さんが発生しました。日本紅斑熱は高熱と発疹です。皮膚にかみついたマダニがいるのを見つけたら、自分で引っ張って取ろうとせず皮膚科を受診してください。

 マダニは野山や河川敷、身近な公園などにもいます。予防は肌を露出させないことです。長袖長ズボンを着用しましょう。虫除け剤の「ディート」や「イカリジン」の成分を含んだ市販の虫よけスプレーが有効です。熱中症対策も十分に行ってください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年07月18日 更新)

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